カグラバチの物語はいよいよ激戦の舞台へと突入します。
今回取り上げるのは、神奈備本部迎撃編。仲間たちの想いや因縁が交錯し、シリーズ屈指のスケールで描かれる戦いが展開されていきます。
本記事では、カグラバチの神奈備本部迎撃編のあらすじを、第87話以降の流れに沿ってわかりやすくまとめました。
カグラバチを追いかけてきた読者にとっても、これから読み始める方にとっても、神奈備本部迎撃編のあらすじは必見です。
それでは、カグラバチの神奈備本部迎撃編のあらすじ(第87話~)をどうぞ♪
「カグラバチ」神奈備本部迎撃編|あらすじ

87話「亡霊」
霧に包まれた敵の輪郭
神奈備本部の資料庫にて、毘灼に関する記録が整理されていた。
そこに記されていたのは、戦後十五年に起きた六平国重の暗殺。
そして、犯行に関与したとされる小規模な組織・毘灼の存在である。
毘灼は十名ほどで構成され、頭領は「幽」と呼ばれる人物…戸籍にも記録されぬ出自、不明瞭な年齢層、家系に属さぬ力……。
毘灼が何を目的とし、なぜ真打と剣聖にこだわるのか……その本質は、依然として深い霧の中にあった。
だが確かなのは、六平国重という偉大な剣士を葬ったその手腕。
資料には薄れゆく戦後の記憶とともに、静かに警鐘が刻まれていた。
動き始めた「亡霊」
神奈備本部・曲者処刑場。
薊奏士郎は、毘灼の人間と死柳兄弟と呼ばれた2人の敵を、圧倒的な力でねじ伏せていた。
しかしその手応えに、妙な違和感を覚える……圧倒しているはずなのに、あまりにも空虚な感触。
薊は、まだ本命が現れていないことを察していた。
第五層では、漆羽と漣が異変を察知する。
毘灼はまたしても駒を用い、本体を姿の見えぬまま温存しているのか……その冷酷な戦術に、かすかな苛立ちが広がっていた。
しかしそれは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。
一方、曲者処刑場の前では、毘灼の男女4人がソファーに腰を下ろしていた。
戦場には似つかわしくないその光景が、むしろ不穏さを増している。
緊張を笑い合うその空間に、彼らの主、幽が現れる。
神無き戦場、神を帯びる者
曲者処刑場前室にいた神奈備の職員と思しき老年の男に幽は静かに声をかけ、手洗いの場所を尋ねた。
殺した相手……六平国重を知る者として、老人は毘灼に興味を抱いていたようだった。
言葉少なに交わされるやりとりの中で、幽は一枚の硬貨を取り出す。
それは運命を試すような静かな賭けだった。
もし勝てば、手洗い場へ案内を……負ければ、自らの命を差し出す……淡々と語る幽の態度に、何か人ならぬものが宿っていた。
投げられた硬貨は、まるで神に選ばれるかのように、表を示す。
老人は静かに手洗い場を案内する。
幽は礼を述べ、静かにその場を後にした。
去り際、老人はふと問いかける……貴様は一体何者なのか…。
その背に返答はなかった。ただ、気配だけが残された。
崩れる静寂、開かれる門
処刑場へと向かう準備の裏では、また一つの選択が動いていた。
神奈備の裏切り者が、結界核の制御に手を伸ばす。ほんの一瞬の乱れ……それが、毘灼の第五層への侵入を許してしまう。
何気ない「違和感」だけを残し、内部はふたたび静けさを取り戻す。だが、遅すぎた。
約束の時間は数秒ズレたが、毘灼の主力メンバーが神奈備第五層に降り立った。
第五層に現れた5人の紋章を見た瞬間にハクリ漆羽幼児は敵の正体が毘灼だと悟る……人数の差は明白…だが、焦りは見せない。
漆羽は妖刀を失った今、十八年ぶりに自身の“本来の力”に頼る覚悟を決めていた。
かつて漆羽の妖術を失う代償として交わした妖刀との命滅契約……それが解かれ、神経の可動が戻りつつある今……再び己の「原点」を武器として戦場に立つ。
その覚悟は、失った年月を超えて新たな希望を告げていた。
88話「皮切り」
神奈備本部の戦端
神奈備本部第六層、結界核の間には不穏な空気が満ちていた。
亥猿は、突入してきた毘灼の動向を冷静に確認する。
五人の毘灼の構成員が第五層の西側へ向かったとの報告を受け、彼は表情一つ変えずに指示を下す。
「どうせ暴れてもいい処刑場に招いてやったのに…」という独白は、状況を掌握しているが故の余裕か、あるいは侮りか。
内通者の特定がまだという情報には耳を貸さず、彼は即座に上層部隊に毘灼の包囲を命じる。
下士官以下には引き続き「何もするな」と徹底させつつ、上層部隊には西から攻め、中央へは決して近づけさせないよう厳命する。
「建物はある程度壊れてもいい。とにかく毘灼は皆殺しだ」。その言葉には、毘灼への容赦ない殲滅の意思が込められていた。
第五層での再会と援軍
場所は移り、神奈備本部第五層。
幽は「生きているはずはないんだがな」と、何らかの事態を訝しんでいた。
その視線の先には、漆羽洋児と漣伯理(ハクリ)の姿がある。
漆羽はハクリに「戦えるか」と問いかけ、ハクリは「ハイ!」と力強く答えるも、本音では「ビミョーです」と正直な胸の内を明かす。
彼女の妖術「威葬」は連続使用によるインターバルが必要で、転送能力は使えるものの、今まで登録した地点はリセットされているという。
漆羽はハクリの簡潔な報告を賞賛しつつ、「敵は前後に七。この子から離れるわけにはいかないな。防戦で蹂躙してやるよ」と内心で決意を固めていた。
その時、天井が綺麗な正方形に切り取られ、天井板と共に一人の人物が舞い降りてくる。
漆羽は驚きとともにその名を呼ぶ。「斬チャン!」。
現れたのは、居合白禊流の開祖である白廻逸夫の孫、白廻斬(しらかい きり)だった。
斬は漆羽が生きていることに驚き、漆羽は過去に白廻逸夫の世話になったことを懐かしむ。失踪中の白廻逸夫が今も斬に連絡を取っていることを知り、漆羽は時代の変化を感じる。
斬は祖父を「剣に関して超男尊女卑のクソジジイ」と評しながらも、どこか愛情めいた感情を覗かせる。
漆羽は斬にハクリを紹介し、斬はハクリを「はくりん」と呼ぶことで瞬く間に打ち解けるのだった。
漆羽の反撃と幽の策略
漆羽は妖術「紅演」を発動させる。
毘灼のメンバーが襲いかかる中、漆羽は驚くべき体術で相手を蹴り飛ばす。
ハクリは漆羽のそのパワーに驚きを隠せない。
毘灼のメンバーの一人も「もろに入ったよ」と動揺を見せる。
別のメンバーが妖術「魔咬」を発動し、巨大な獅子舞の頭のようなものが現れて襲いかかる。
漆羽は斬にハクリを託し、「さて…攻戦だ」と宣戦布告する。
激化する戦場
毘灼のメンバーの一人が差し出した本から刀が現れ、それを握った幽が漆羽に斬りかかる。
漆羽の攻撃は驚異的な速度を誇るが、破壊力はさほどではない…能力の一点を強化する妖術だと幽は分析する。
漆羽は(座村の方を千尋が止めている)と状況を把握しつつ、毘灼のメンバーに問いかける。「契約者殺しの手札が底を尽きたか?」
幽は「おまけに時間もないんで邪魔しないでもらえると助かるよ」と挑発的に返す。
さらに毘灼のメンバーCが「幽、続々ときてるよ」と告げると、漆羽は「分からないはずがねえ。邪魔者は俺以外にも山ほどいるぞ」と不敵に笑う。
幽は「神奈備本部にはいろんな奴がいる。俺たちは東の間の混沌に一役買わせてもらう」と、自らの目的を明かす。
再び毘灼のメンバーBが妖術「魔咬」を発動し、巨大な獅子舞の頭が次々と現れ、漆羽たちに襲いかかる。
幽は「手札ならあるさ。“死闘”だ」と言い放つ。
ハクリを襲おうとする巨大な獅子舞の頭を、白廻斬が瞬時に切り倒し…「下がってて」とハクリに告げる斬の声が、激化する戦場に響き渡るのだった。
89話「乱戦」
英雄の終焉と人形の正体
雲のない空に降る雨、真夏に舞うあられ、音もない雷鳴――。
かつて、空に現れる異変が「悪党が死ぬ前兆」と恐れられた時代があった。
それは、妖刀「刳雲」を操る旧契約者、巳坂伊武基(みさかいぶき)の存在に由来する。
斉廷戦争の最中、彼は二十歳という若さで座村に並ぶほどの剣豪として名を馳せ、その圧倒的な力で数々の伝説を残した。
しかし、その栄光も永遠ではなかった……。
三年前、六平国重が殺害されたその時、毘灼の刺客が巳坂伊武基の自宅に現れる。
英雄と刺客の一騎打ちは、英雄の敗北という結末を迎えた。
その刺客と似た、甲冑を纏った敵を倒した神奈備の薊奏士郎は、その正体を見抜いていた。(六平宅を強襲した刺客と同じ鎧だが、これは妖術で操られた人形だ。本体は別の場所にいるな)と、冷静に状況を分析する。
戦いの舞台は、神奈備本部第一層にある曲者処刑場。
事態はまだ序章に過ぎないことを、薊は確信していた。
虚無を抱える剣士
場面は切り替わり、街の一角にある小さな煙草屋。
店主の老婆と会話を交わす毘灼の北兜(ほくと)は、先ほど処刑人・薊が倒した「鎧の人形」について語っていた。
処刑人(薊)は、さすがに鎧の人形では太刀打ちできないか、と北兜は静かに呟く。
煙草屋に訪れた男がタバコの火を北兜に求めた…北兜は抜刀の摩擦で瞬時に火を灯す。
タバコに火をつける際、彼は抜刀した刀の摩擦で着火するという妙技を見せるが、それに驚く男には「いいや?」とはぐらかす。
老婆は彼の意地悪な態度を咎めながらも、摩擦で超高温を生み出す彼の技術に感心していた。
その直後、北兜の携帯電話が鳴り響く。電話の相手は毘灼のメンバー、お松。
北兜は薊が人形を倒したことを報告し、時間稼ぎはできたかと尋ねる。
お松は「さっさと突入しろ」と命令するが、北兜は気乗りしない様子で「んぁーはいはい、行きますよ」と返事をする。
北兜は、三年前、たった一人で英雄・巳坂伊武基を殺したと称賛されることに不満を抱いていた(俺が戦った巳坂伊武基は、剣豪じゃなかった。戦争から15年経って、とっくに牙は抜け落ちてたんだ)と内心で呟く。
長年かけて調整した刀のすべてを出しきれなかった虚しさ……。
北兜はその日から、真の強者との戦いに飢えていた。
お松は、神奈備本部には「白廻の孫」や「巳坂の…」がいると告げる。
そして最後に、漆羽洋児が生きていること、そして本部内で幽たちと対峙しているという「朗報」を伝えると、北兜の顔に満面の笑みが浮かぶ。
兄弟の道
同じ頃、神奈備本部第三層の訓練室では、巳坂奈ツ基(みさかなつき)が剣術の鍛錬に励んでいた。
(俺には二つ上の兄貴がいた。俺たちはいつだって二人揃って最強だった…)巳坂奈ツ基はかつての記憶を辿っていた。
才能に恵まれた巳坂兄弟は、斉廷戦争が始まると東京へ向かい、兄・伊武基は妖刀「刳雲」の契約者に選ばれる。
兄弟二人揃って最強!奈ツ基も妖刀の契約者になるはずだった。
しかし、妖刀「真打」を除けば最後の妖刀「酌揺」の契約者に選ばれたのは、一つ年下の新参者、漆羽洋児だった。
兄・伊武基は「仕方ない。この世界は少しでも弱けりゃ淘汰される」と語った。
兄弟の道はそこで分かれ、戦後、伊武基は剣を捨て……そして三年前、伊武基は毘灼に殺された。
弱くなったから淘汰されたのだと、奈ツ基は自分に言い聞かせていた。
しかし、奈ツ基は兄とは違う!戦後十八年間、一日も欠かすことなく剣術に打ち込んできた今の自分は強くなったと確信していた。
そこに神奈備の隊員が駆けつけ、第五層に毘灼が侵入したことを告げる。
奈ツ基は、この非常事態を「これ以上ない長ぇ準備運動だった」と受け止め、戦場へと向かう。
90話「キリちゃん」
英雄の終焉と人形の正体
雲のない空に降る雨、真夏に舞うあられ、音もない雷鳴――。
かつて、空に現れる異変が「悪党が死ぬ前兆」と恐れられた時代があった。
それは、妖刀「刳雲」を操る旧契約者、巳坂伊武基(みさかいぶき)の存在に由来する。
斉廷戦争の最中、彼は二十歳という若さで座村に並ぶほどの剣豪として名を馳せ、その圧倒的な力で数々の伝説を残した。
しかし、その栄光も永遠ではなかった……。
三年前、六平国重が殺害されたその時、毘灼の刺客が巳坂伊武基の自宅に現れる。
英雄と刺客の一騎打ちは、英雄の敗北という結末を迎えた。
その刺客と似た、甲冑を纏った敵を倒した神奈備の薊奏士郎は、その正体を見抜いていた。(六平宅を強襲した刺客と同じ鎧だが、これは妖術で操られた人形だ。本体は別の場所にいるな)と、冷静に状況を分析する。
戦いの舞台は、神奈備本部第一層にある曲者処刑場。
事態はまだ序章に過ぎないことを、薊は確信していた。
虚無を抱える剣士
場面は切り替わり、街の一角にある小さな煙草屋。
店主の老婆と会話を交わす毘灼の北兜(ほくと)は、先ほど処刑人・薊が倒した「鎧の人形」について語っていた。
処刑人(薊)は、さすがに鎧の人形では太刀打ちできないか、と北兜は静かに呟く。
煙草屋に訪れた男がタバコの火を北兜に求めた…北兜は抜刀の摩擦で瞬時に火を灯す。
タバコに火をつける際、彼は抜刀した刀の摩擦で着火するという妙技を見せるが、それに驚く男には「いいや?」とはぐらかす。
老婆は彼の意地悪な態度を咎めながらも、摩擦で超高温を生み出す彼の技術に感心していた。
その直後、北兜の携帯電話が鳴り響く。電話の相手は毘灼のメンバー、お松。
北兜は薊が人形を倒したことを報告し、時間稼ぎはできたかと尋ねる。
お松は「さっさと突入しろ」と命令するが、北兜は気乗りしない様子で「んぁーはいはい、行きますよ」と返事をする。
北兜は、三年前、たった一人で英雄・巳坂伊武基を殺したと称賛されることに不満を抱いていた(俺が戦った巳坂伊武基は、剣豪じゃなかった。戦争から15年経って、とっくに牙は抜け落ちてたんだ)と内心で呟く。
長年かけて調整した刀のすべてを出しきれなかった虚しさ……。
北兜はその日から、真の強者との戦いに飢えていた。
お松は、神奈備本部には「白廻の孫」や「巳坂の…」がいると告げる。
そして最後に、漆羽洋児が生きていること、そして本部内で幽たちと対峙しているという「朗報」を伝えると、北兜の顔に満面の笑みが浮かぶ。
兄弟の道
同じ頃、神奈備本部第三層の訓練室では、巳坂奈ツ基(みさかなつき)が剣術の鍛錬に励んでいた。
(俺には二つ上の兄貴がいた。俺たちはいつだって二人揃って最強だった…)巳坂奈ツ基はかつての記憶を辿っていた。
才能に恵まれた巳坂兄弟は、斉廷戦争が始まると東京へ向かい、兄・伊武基は妖刀「刳雲」の契約者に選ばれる。
兄弟二人揃って最強!奈ツ基も妖刀の契約者になるはずだった。
しかし、妖刀「真打」を除けば最後の妖刀「酌揺」の契約者に選ばれたのは、一つ年下の新参者、漆羽洋児だった。
兄・伊武基は「仕方ない。この世界は少しでも弱けりゃ淘汰される」と語った。
兄弟の道はそこで分かれ、戦後、伊武基は剣を捨て……そして三年前、伊武基は毘灼に殺された。
弱くなったから淘汰されたのだと、奈ツ基は自分に言い聞かせていた。
しかし、奈ツ基は兄とは違う!戦後十八年間、一日も欠かすことなく剣術に打ち込んできた今の自分は強くなったと確信していた。
そこに神奈備の隊員が駆けつけ、第五層に毘灼が侵入したことを告げる。
奈ツ基は、この非常事態を「これ以上ない長ぇ準備運動だった」と受け止め、戦場へと向かう。
91話「奈ツ基」
猛攻を退ける北兜
白廻斬とハクリは、突如現れた毘灼の北兜と対峙していた。
北兜はハクリの正体を「漣伯理」と見抜く。
白廻斬は刀を使い陽動をかけるが、北兜はそれを「半端な刀だ」と一蹴し、その真の狙いがハクリの妖術「威葬」であることを看破した。
ハクリが放った「威葬」は、北兜によってまるで紙切れのように弾き返される。
それは、この日三度目の威葬…徐々に威力を失っていく自身の妖術に焦燥感を覚えながらも、ハクリは「一歩も動かずに…はじき返されるなんて」と、北兜の圧倒的な力に戦慄する。
漆羽の居所を尋ねる北兜に対し、白廻斬は応える気はなく、内心でハクリに逃げるよう促す。
しかしハクリは「もっとあの時くらいの力を振り絞れば…!」と、諦めきれない思いを抱いていた。
新たな剣豪の介入
その時、ハクリの後ろの壁が四方に斬り裂かれ、巳坂奈ツ基が飛び出してくる。
彼は北兜に猛然と斬りかかり、その場にいた白廻斬を助ける。
白廻斬は「ナツキ!」と呼びかけるが、奈ツ基は「おい、呼び捨てにするな」と、いつものように年上であることを強調する。
神奈備職員が「建物を壊すな」と叫ぶ中、彼は自身の名を名乗り、兄・巳坂伊武基が三年前毘灼に殺されたことを告げ、北兜がその組織の一員であることを確認する。
北兜もまた自身の名を明かし、もし奈ツ基が自分に勝てば、兄を殺した張本人を紹介すると持ちかける。
剣豪たちの思想
北兜は、自身の剣は生き抜くためではなく、「死闘の悦び」のためにあると語る。
彼は、全てを出し切る戦いの中で研鑽が花開くと信じていた。
そして、その相手に漆羽洋児を選び、その居場所を尋ねる。
しかし、奈ツ基は「過去の称号にばかり気を取られて目の前の剣豪を見過ごすのは情けねぇ話だな」と、北兜の言葉を一笑に付す。
奈ツ基の言葉通り、彼の太刀筋は素早く、甲冑に刃を通すほどの繊細さを持っていた。
その隙をついて、白廻斬は巨大な壁を蹴り飛ばす!
奈ツ基は、その隙をついて妖術「雷躯(らいく)」を発動させ、雷光を北兜に浴びせる。
その凄まじい力は、再び神奈備職員に建物の破壊を警告させるほどだった。
渦巻く感情と残酷な再会
奈ツ基は、漆羽に固執する周囲の人々や、漆羽自身の態度に苛立ちを覚えていた。
漆羽が奈ツ基を明確に見下していると感じていたのは、ひとつ年下の漆羽が奈ツ基を「友達」と呼び、タメ口で話そうとしたことに起因していた。
奈ツ基は、漆羽の「よくわからん言い訳」にうんざりしていた。
北兜に対し、奈ツ基は「漆羽洋児はもう死んだ。俺はせいせいしたよ」と突き放す。
しかし、その言葉が終わるや否や、天井が崩れ、漆羽洋児が舞い降りてくる。
ここに神奈備の漆羽洋児、白廻斬、ハクリ、毘灼の幽、北兜の精鋭が集う。
「おおナツキ!お前がいれば心強い!」無邪気に再会を喜ぶ漆羽の明るい声は、奈ツ基の心に渦巻く複雑な感情とは裏腹に、残酷なまでに響き渡るのだった。
92話「奈ツ基」
再会する剣士たち
神奈備本部での激しい戦いは、さらなる激化をたどっていた。
天井が崩れ落ち、その隙間から漆羽洋児と幽が姿を現す。
幽の姿を確認した北兜は、彼が連れてきた男が漆羽洋児であることに気づき、待ち望んだ再会に興奮を隠せない
漆羽と奈ツ基、二人の剣士は久々の再会を果たした。
奈ツ基は、悠然と現れた漆羽に「何チンタラやってんだ」と苛立ちをぶつける。
漆羽は、敵の妖術で体が重かったと釈明するが、すでにその影響はなくなっていた。
奈ツ基は北兜の反応速度に驚嘆し「こっちの敵はやり手だ」と警告する。
漆羽の隣にいた白廻斬も、北兜の剣の腕が相当なものであることを感じ取っていた。
漆羽は白廻斬とハクリに、真打のもとへ向かうよう指示を出す。
白廻斬は不満を漏らすが、奈ツ基が「文句言うなガキが」と一喝する。
漆羽もその口の聞き方を咎めるが、白廻斬は「おじさんはおじさんに任せよう」と、二人をまとめてからかうのだった。
明かされる因縁と宣戦布告
北兜は漆羽に、斉廷戦争で妖刀を振るった彼への敬意を語る。
そして、自分が巳坂伊武基を殺した張本人であること、さらに六平国重の心臓を刀で突いたのも自分だと告白する。
北兜が言葉を続ける中、幽は「なんのつもりだ」と制止しようとするが、北兜は構わず、幽こそが六平と巳坂の殺害を指示した首謀者であり、毘灼の頭だと明かす。
その瞬間、漆羽の居合白禊流が炸裂し、北兜の左腕を切り落とした。
極限の剣術
神奈備本部第3書庫で、4人の剣士の激しい斬り合いが始まった。
北兜は白禊流の威力に驚愕しながらも、漆羽洋児を「戦才」と称し、死の未来を容易に想像できるその状況に痺れていた。
北兜は漆羽の左手の指を切り落とし、自身の左腕の仇を討つ。
漆羽は、北兜の卓越した距離感覚と動体視力に驚愕する。
そこに奈ツ基が斬りかかる。「温泉三昧でふやけちまった漆羽でご満足か?」と挑発するが、北兜は奈ツ基がまだ本気を出していないことを見抜いていた。
奈ツ基は、漆羽の初速の速さを認めつつも、その剣の鋭さが落ちていることを見抜いていた。
彼は、長年の鍛錬と戦いの末に手に入れた「鋭さ」こそが、剣士の命運を分けると確信していた。
本能の呼び声
奈ツ基の鋭い攻撃を目の当たりにした幽は、北兜の加勢に入る。
一方の漆羽は、風呂でのんびりしていた自分と戦い続けた奈ツ基を比較し、この状況を「俺以外全員準備万端」と認識していた。
だからこそ、ここで彼らを殺さなければならないと決意する。
かつて、死の瀬戸際でひたすら実戦の中でその腕を磨いた漆羽。
彼の剣の原点は「生きる術」だった。
剣豪たちとの死線は、その本能を再び沸き立たせていく。
4人の剣士の斬り合いは、双方満身創痍の状態で続いていくのだった。
93話「仕上げ」
剣士たちの乱舞
北兜、幽、漆羽洋児、巳坂奈ツ基の四人の剣士が向かい合う。
北兜はこの戦いの状況を心から楽しんでいるようだった。
奈ツ基が自分だけが妖術を使っていることに苛立ちをぶつけると、漆羽は18年ぶりという長いブランクから、妖術という選択肢が咄嗟に出てこなかったと認める。
漆羽のこの言葉は、戦いから離れていた彼の状況を象徴するとともに、奈ツ基との関係性の深さも示していた。
北兜は、奈ツ基が妖術がなくとも優れた剣の腕を持つことを称賛し、奈ツ基は北兜の言葉を軽蔑しながらも、その実力には一目置いていた。
奈ツ基は、幽が剣術ではなく純粋な身体能力で戦いに食らいついていること、そして北兜が「俺たちを殺す気っていうより剣戟をじっくり味わってる」という恐ろしい事実を見抜く。
北兜は、皆が負った傷を「良い」と表現し、この戦いが最高潮に達していることを示唆する。
彼にとって、この戦いは命を懸けたショーであり、その狂気じみた愉悦は、奈ツ基に「糞喰らえ」と吐き捨てさせるほどだった。
毘灼の容赦なき侵攻
その頃、神奈備本部第五層では、毘灼の構成員たちが無慈悲な侵攻を続けていた。
毘灼の瓶伍は妖術で頭を獅子舞へと変じ、職員を噛み砕き、毘灼の右嵐は冷気を操り、触れた兵を次々と氷像へ変えていく。
二人にとって人命はただの糧であり、犠牲者の悲鳴さえも愉快なざわめきにすぎなかった。
彼らは神奈備の兵を「弱い」と嘲笑い、やがて現れる精鋭部隊に備えて力を蓄えていると口にする。
神奈備職員はその圧倒的な力の差を悟り、抗う術を失っていた。
だが一人の神奈備職員が前に出て、静かに言い放つ。「数秒でいい、もたせる。その後は合図で俺ごと撃て」と。
自らの命を捨てる覚悟を示したその言葉は、絶望的な状況にあってなお戦い続ける意思の証だった。
この場面は、毘灼の非情さと、神奈備の兵士たちの悲壮な決意を鮮烈に浮かび上がらせていた。
真打を巡る思惑
真打・勾罪を探して本部をさまよっていた白廻斬とハクリは、薊奏士郎と壱鬼に出くわした。
ハクリは薊が無事であることに心から安堵する。
薊は、曲者処刑場での混乱が収まり、今や内部のゴタゴタが深刻な問題だと語った。
ハクリは、自分が真打を蔵にしまえばこの事態は収まると信じていた。
しかし壱鬼は、毘灼の無謀な行動の裏に別の目的があるのではないかと推測する。
彼は、毘灼が真打を楽座市に出品した行為が、遠隔で力を発動させるための「起爆剤」を送り込むものだった可能性を語った。
封印の際に細工がないかは調べ上げたものの、壱鬼の口から出る言葉には「懸念」という重い響きがあった。
ハクリは壱鬼の不安な言葉を聞きながらも、希望を捨てず、ついに真打のもとにたどり着く。
この場面は、ハクリの決意と、まだ明かされていない毘灼の真の狙いが、物語をさらに複雑にしていることを示唆していた。
94話「仕上げ」
真打起動の仮説
壱鬼はハクリに、真打の能力と封印の仕組みに関する見解を確認した。
ハクリの話に基づき、妖術「蔵」への登録には玄力を込める必要があること、そして楽座市に出品された「真打」が封印解除状態だったという事実から、壱鬼は漣京羅が早期に真打へ玄力を込めていたと推測した。
壱鬼は、玄力を込めるだけでは影響がなく、「使う」という明確な意思があって初めて真打の力が発動されるという仮説を立てる。
これにより、あらかじめ玄力を込めておけば、神奈備本部内で力を発動できるという「起爆剤」の可能性が浮上した。
この力は一時的だが、代償として剣聖に身体を蝕まれ、発動者は自我を保てなくなる。
壱鬼はこの作戦の危険性から可能性は低いと見ていたが、調査の結果、真打に誰の玄力も仕込まれていないことを確認し、再封印を完了させた。
封印作業は壱鬼、嘉仙、夜弦の3人によって行われた。
神奈備上層部への疑念
ハクリは、神奈備の長官である嘉仙、補佐の壱鬼、夜弦の3人がトップの実力者であると知りながらも、区堂が薊を「頭一つ抜けている」と評していたことを思い出す。
薊は、自身の強さが戦闘面に限られることを認め、妖術以外の結界術や封印術といった分野では、他の3人に及ばないと説明した。
壱鬼は、毘灼の無謀な行動の裏に、白羽織の3人のうち誰かが毘灼に内通している可能性を懸念していた。
白羽織の人間であれば、混乱の隙に真打の封印を緩め、本部内の人間を捨て駒として利用することが可能であるためだ。
壱鬼は、長年の付き合いである嘉仙と夜弦への懸念を解消するため、真打の保管場所へ向かう。
真打保管場所での異変
壱鬼、薊奏士郎、ハクリ、白廻斬の一行は、妖刀「真打・勾罪」が保管されている場所に到着する。
嘉仙がそこで待機していた。
壱鬼は嘉仙を見て安堵し、封印が健在であると判断する。
嘉仙はハクリの無事を尋ね、壱鬼が真打をハクリの蔵へ移すという予定を確認すると、「毘灼にここを堕とす術はない」と確信を示す。
しかし、嘉仙は壱鬼の言葉を「…いや」と否定した。
幽の決断と真打の力の顕現
場面は、幽と北兜対漆羽洋児と巳坂奈ツ基の戦場へと切り替わる。
北兜は斬り合いを続けることを望むが、幽は、漆羽と奈ツ基が妖術で自分たちを早々に殺す意図を持っていることを察知し行動を早める。
すると幽の動きが急激に加速し、膂力も向上した!
そして、再びハクリ側の場面。
壱鬼は、問題なかったはずの封印の内側から玄力が溢れ出ていることに気づき、事態が封印前から仕込まれていた可能性に直面する。
彼は、誰かが仕込みを知っていて隠蔽工作した可能性、すなわち内通者の存在を疑った。
幽は、真打の力を楽座市に出品する直前に玄力を込めたことを回想する。
楽座市での目的は、真打の力の主導権と「猶予」の有無を確認することだった。
漣京羅ほどの精神力が無ければ戦闘すらままならくなるような行為だが、幽は「比類なき執念の下には試す価値がある」と確信していた。
神奈備本部深くに幽閉されている剣聖はひとこと呟く「勾罪」と……。
剣聖の力である妖刀「真打・勾罪」の能力が幽の身体に宿り、発動する。
東の地中から咲く花のように力を得た幽と、西の天から墨色の羽根を穿ち東京へ移動する座村清市達。
戦局は急激に加速し、物語は幕を閉じた……。
95話「横溢」
神奈備の限界と嘉仙の思想
嘉仙は、神奈備の限界と自らの理想について語り始めた。
彼は、漣家のような有力な妖術師一族が古くから存在し、18年前の斉廷戦争を機にその活動が活発化しようとしていた状況を指摘する。
戦後、政府によって新設された神奈備は、寄せ集めで歴史が浅いため、伝統ある有力一族は神奈備に服従しなかった。
嘉仙は、漣家主催の「楽座市を見過ごす」ことさえが、現在の神奈備ができる「最低限の治安維持」の範疇だと説明した。
彼は、真の秩序をもたらすためには、各地の有力一族を神奈備の傘下に置くことが不可欠だと主張する。
しかし、生半可な威圧では彼らは屈しない。そこで必要となるのが、「圧倒的な力」、すなわち妖刀の力だと断言した。
妖刀利用の是非と裏切り
壱鬼は、その議論は戦後間もない頃に既に行ったと反論する。
彼は、妖刀「真打」がかつて「蠱」という大罪を犯したことを指摘し、妖刀にも罪があると主張する。
チヒロの父・六平国重ですら妖刀の奥行きを正確に計り知れなかった以上、第二の蠱が起こる可能性を否定できないため、力を使う選択肢はないと断言した。
神奈備は妖刀を封印し、教育によって後進を育て、人の力で平和を築くという方針を確立したのだ。
しかし嘉仙は、その総意では妖術師一族の支配はできないとし、この世に必要なのは妖刀の力だと繰り返す。
彼は、この日のために地位を維持してきたと明かし、「妖刀による秩序」をもうすぐ始められると告げた。
壱鬼が「毘灼のような賊と組むのか」と問うと、嘉仙は「明るい未来のためなら」と、矜持も…剣聖を殺すことで道連れになる契約者たちも…かつての六平国重も…そして今抵抗する壱鬼たちもすべてを犠牲にする覚悟があると断言した。
薊の裁定と嘉仙の排除
嘉仙の告白が終わった次の瞬間、薊奏士郎の裏拳が嘉仙の顔面に入った。
薊の拳は嘉仙の顔面にめり込み、その体は壁に激突して壁を崩壊させ、嘉仙はそのまま気を失った。
薊は壱鬼に、気を失った嘉仙の尋問を依頼する。
嘉仙が「毘灼側」の人間を全て知っていると判断したためだ。
壱鬼が薊の行先を問うと、薊は「毘灼の頭を狩りに」行くと答えた。
その場に倒れる嘉仙は、無駄だと呟き真打の力の前では無力だと嘯く。
壱鬼は、薊が戦闘面だけでなく妖術もかなりの実力者であり、区堂の「薊が頭一つ抜けている」という言葉が総合的な評価だったことを悟る。
真打の力「蜈(むかで)」の発動
場面は、幽&北兜 対 漆羽洋児&巳坂奈ツ基の戦場へ移る。
幽は真打の力で彼らを蹂躙すると告げ、妖刀真打の能力「蜈(むかで)」を発動させる。
幽を中心に、地上から高さ1メートルの広範囲に衝撃波が広がり、周囲の柱や壁が崩れ落ちた。
この圧倒的な力に、巳坂奈ツ基は驚愕を覚える。
幽は、「剣聖…すぐに殺しに行くよ」と内心で告げ、完全に真打を自分のものにするという意志を示した。
薊の決意と戦局の拡大
嘉仙を排除した薊は、「望みは支配か…真打による支配…その先に何がある…」と、真打の力による支配の行く末に悪い想像を巡らせる。
薊は心中で六平国重に語りかける……必ず止める……だから安心して眠ってほしいと。
その背には、神奈備を支える者としての重みと、未来を背負う者の覚悟が確かに宿っていた。
96話「切迫」
神奈備本部の孤立と対策の指示
真打の力が発動した事態を受け、神奈備補佐の壱鬼は、極度の切迫感から、柴登吾と香刈緋雪の妖刀契約者二名を急ぎ本部へ呼び戻すよう指示した。
他の契約者の警備は最低限でよいとし、このまま剣聖が殺されれば命滅契約の影響で全ての契約者が死ぬという、最悪の事態を防がぐため、何としても幽を食い止めなければならないと判断していた。
しかし、職員からの応答は「電波が繋がらない」というものだった。
嘉仙は、この混乱の中で毘灼の同志が結界の仕込みを成功させ、神奈備本部が孤立無援の状態に陥ったことを確信する。
壱鬼は、結界が妖刀「淵天」と「飛宗」の侵入のみを阻むよう改変された可能性を推測。
その効果は数分程度だと断じる壱鬼に対し、嘉仙は「全てを賭けた数分」であり、真打の力の前では生身の妖術師を殲滅するのに十分な時間だと、その冷酷な思惑を口にした。
妖刀の気配と三者の迎撃開始
真打の力を使い出した幽の気配を察した薊奏士郎は、この力が剣聖を殺す目的のために使われていると見抜く。
漆羽洋児は、座村清市と六平千鉱の二つの妖刀の気配が本部近くに来ていることを感じ取り、「チヒロ…やったのか」と内心で安堵した。
薊は、二人が到着するまでの束の間、幽をこの場に留めておくことを提案。
漆羽は、この能力がチヒロたちが言っていた「ムカデ」だと確信し、薊と奈ツ基に連携を促す。
奈ツ基も「わかってるよ。舐めんな」と応じ、三人は同時に幽を討ちにかかった。
幽は迎撃として、真打の能力「蜈(ムカデ)」を咆哮とともに発動。
「蜈」の攻略と薊の秘術解放
漆羽は、「蜈」が360度攻撃でありながらも、術者の背後には威力の弱い隙間があること、そしてインターバルが存在することを瞬時に見抜く。
言葉はなくとも、漆羽と奈ツ基は囮となり「蜈」を誘発し、薊が背後から隙を突くという連携を成立させた。
幽は、薊の速い動きを身体強化の妖術だと推測し、真打の別の能力「蜻(トンボ)」を発動。
直線的な攻撃で薊の両腕を破壊し、「生身じゃ勝ち目はない」と警告する。
しかし、薊は蜻(とんぼ)を受ける前に、10円玉と1円玉を指で弾き、妖術「己印(こいん)」を発動させていた。
この力は、二種類の金属のイオン化傾向の差異による微弱電流を操る、薊家に代々受け継がれた妖術であり、彼はそれを戦闘用に改良していた。
その力は、自らの血流を速めて身体能力を向上させ、さらには敵の筋繊維を激しく刺激し、幽に多大なダメージを与える。
命を懸けた極限の殴殺
幽は、薊の生身のような構えがブラフであり、その本命が硬貨を用いた妖術であることに気づく。
しかし、幽が「そこまでしてもこの程度が限界だ」と判断する直後、薊は「心配するな。本命は殴殺だーーッ!!」と叫んだ。
薊は、破壊された両腕にもかかわらず、渾身の拳を幽の脇腹にもろに叩き込む。
致命的な一撃を受けた幽の焦りを誘いながら、薊は「いいのか?こんところで僕らなんかとのんびりしていても……」と不敵な笑みを浮かべた。
真打の圧倒的な力と、妖刀契約者たちが結界に阻まれ近づけない状況の中、三人は自らの命を懸けた極限の時間稼ぎを続けていた。
97話「切迫」
結界の要と神奈備の秘密
神奈備本部を囲む強固な結界は、「神奈備職員以外の全ての者の侵入を阻む」大規模なものであり、その強大な玄力は、地下に張り巡らされた術陣が「大地の熱」から変換し、建物内部に供給していた。
本来、生命のエネルギーである玄力は人に属するものであり、誰にも属さない莫大な玄力は制御できず、自然消滅するはずだった。
しかし、その莫大な玄力を結界に変換し、制御を可能にしているのが、結界の要として中央に鎮座する「受け皿」と呼ばれる人物である。
彼は十年に一度、数名の候補者の中から選ばれ、約四ヶ月間の過酷な肉体改造を経て、いくつかの臓器と生殖機能を失う代わりに、膨大な玄力の媒体となっていた。
彼の周囲に接続する六名の補助者が、結界の維持を担っている。
結界の改変と「第二の受け皿」の存在
真打の力が本部内で解放され、上空に妖刀の気配があるにもかかわらず増援が降りてこない状況を、亥猿は結界の問題だと断じた。
彼は、結界の仕様に影響を与えられるのはここに接続している六名の中に毘灼側の人間がいるからだと疑う。
しかし、結界の要である男は、ここに裏切り者はいないと否定し、「もう一人いる。俺と同じく『受け皿』となっている奴が」と驚くべき事実を明かした。
亥猿は、毘灼の人間が本部に潜り込んだ者の中に「第二の受け皿」がいると推測。
それは容易な代償ではないが、毘灼側も半端な覚悟で来ていない証拠だった。
亥猿はすぐさま社内放送を流し、建物内に結界の「受け皿」がもう一人存在し、結界の条件を上書きしたことを全職員に伝達した。
壱鬼の推測と結界奪還の指令
壱鬼は、神奈備には不測の事態に備えて後継者を作るための道具(予備の受け皿)が存在したことを思い出す。
嘉仙の手引きがあれば、毘灼側がこれをすり替えて入手することも難しくなかっただろうと推測する。
この「第二の受け皿」によって玄力の流れが変わり、結界を生成する回路が変動した結果、妖刀「飛宗」と「淵天」の二振りのみを阻む結界へと条件が変更されたのだった。
受け皿が二つあることで力は乱れ、結界は不安定になり、本部とその周辺の電波にまで影響が出ていた。
嘉仙は、この不安定さゆえに結界は数分のうちに破られるだろうが、それよりも早く幽が剣聖に辿り着くと断言する。
対し壱鬼は、「そちら側の受け皿を殺して結界を元通りにすればいい話だ」と反論。
壱鬼はハクリと斬に、最優先で結界の奪還に向かうよう指示を出した。
幽の覚醒と薊の極限の抵抗
一方、戦闘中の幽は、真打の力に一矢報いた薊に対し、「そんな戦い方ではすぐに力尽きるぞ」と声をかけるが、薊は「妖刀の力がありながら生身の人間に一矢報いられて焦った方がいいんじゃないか?」と余裕を見せた。
幽は、真打の力を少しずつ掴み始めたことを自覚し、「ここからは期待に沿うよ。俺がこの国に秩序をもたらしてやる」と宣言。
毘灼の男は、幽を王にすると意気込んだ。
両腕の骨も筋肉もズタズタになりながら、薊は「結界が戻れば増援が来る。この男を完全に止めるには妖刀が必須だ」と冷静に状況を分析。
使える身体は限られているが、「まだまだ殴ります」と、死ぬ前にできる限り時間を稼ぐことを決意した。
そのとき、社内放送が再び響き渡り、亥猿は「引き続き毘灼を殺せ!邪魔する奴がいればそいつも毘灼側の人間だ」と叫び、結界を取り戻し、チヒロたちを呼び込むという神奈備の総意を職員全員に伝達し物語は幕を閉じた……。




