カグラバチの所有者暗殺編【京都編】あらすじ(第60~86話)

カグラバチのあらすじ京都編(第60話~最新話)
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『カグラバチ』あらすじ所有者暗殺編【京都編】(第60話〜)では、死から蘇ったチヒロの復活を契機に、物語が大きく動き出します。

妖刀「淵天」との命滅契約が座村の意図によって断ち切られた可能性が浮上し、チヒロの復讐の行方に新たな疑念と決意が交錯……漆羽を失った喪失感と怒りを抱えながらも、彼は再び戦うことを選びます。

一方、神奈備内部では座村清市を巡る情報と謎が錯綜し、討伐部隊の結成が進行。

かつて座村の親衛だった忍集団「巻墨」との共闘が始まり、戦局は京都へと移ります。

鍵を握るのは、座村が密かに守り続けてきた一人娘の存在――その行方を追い、チヒロたちは動き出します。

かつてない緊張感と深みを増した『カグラバチ』の核心に迫る展開が待ち受けています。

それでは、カグラバチのあらすじ京都編(第60~86話)をどうぞ♪

目次

「カグラバチ」所有者暗殺編【京都編】|あらすじ

【公式】『カグラバチ』9巻発売記念PV|“三妖、激突。” 座村×チヒロ×昼彦篇【週刊少年ジャンプ】

京都編は1話ごとにあらすじを紹介していきます♪

60話 「黄泉がえり」あらすじ

妖刀の宿命 : 命運と復讐の新章
第60話では、チヒロとその周囲を取り巻く運命の転換点が描かれました。

座村清市に斬られ死亡が確認されたチヒロだったが、チヒロは奇跡的に息を吹き返す。

この蘇生が偶然ではなく座村の意図的なもので、チヒロと妖刀「淵天」の命滅契約を断ち切り、復讐の道を放棄させるための策略ではないかと柴登吾は推測する。

一方、チヒロの蘇生に希望を抱いた柴は、同様の奇跡が漆羽にも訪れることを期待するが、彼の遺体は既に解剖に回されており、その望みは絶たれる。

漆羽の死に怒りと悲しみを抱えるチヒロは、自らの復讐を決意し、父から受け継いだ教えを胸に進む覚悟を固める。

神奈備の動向と内通者の存在
一方、物語の舞台は「神奈備(かんなび)」へと移る。

妖刀を守る契約者たちを安全な場所へ隔離するための作戦が実行されるが、組織内に内通者がいる可能性が浮上する。

これにより、神奈備の上層部は座村への対応を急ぎ、討伐部隊の編成が検討される。

しかし、座村の能力とその背後に潜む毘灼との関係性が依然として謎に包まれており、状況は緊迫の度を増していく。

さらに、神奈備の戦力は現在のところ不足していた

妖刀「飛宗」と「酌揺」が座村の手中にあり、これらの妖刀がもたらす脅威が増大している中、神奈備側の突破口は未だ見えない状態だ。

千鉱の葛藤と柴の苦悩
チヒロは、座村討伐へ向かう決意を固めつつも、漆羽の死や座村の真意に対して多くの疑問を抱く。

チヒロは柴に「父たちが隠した罪」とは何かを問い詰めるが、明確な答えは得られない。

チヒロの言葉に対し、柴もまた自分の無力さを痛感しつつ、座村を止める術を失っていた。

柴は心の中でこう呟く「俺がもっと早く大人としての責任を果たせていたら…」と…この後悔が彼をより深い苦悩へと導く。

柴は再びチヒロに妖刀「淵天」を託す。

最後に向けた準備
チヒロは柴とのやり取りの中で、「俺はもう地獄に堕ちても構わない」と断言する。

この言葉にチヒロの決意の強さと覚悟が如実に現れている。

そして、巻墨からは「2日後にはとっておきの任務がある」と告げられ、物語は次なる局面へと進む。

忍の正装を身に纏い、戦いに向けた意志を固める巻墨とチヒロ。

座村討伐部隊としての行動が始まるまで、チヒロはこれまで以上に深い決意を胸に秘めていた。

柴との約束「二度と死なない」という言葉を胸に、チヒロは新たな戦いに挑む。

座村討伐部隊の結成
チヒロが回復した後、神奈備御庭番・元座村親衛隊「巻墨(ますみ)」と共に座村討伐部隊を結成することが決定する。

巻墨は忍衆であり以前は座村の護衛を務めていた隊だ

彼らもまた、座村に対する複雑な感情を抱えつつ状況を打開するためにチヒロと手を組むことを選ぶ。

巻墨のリーダーはチヒロにこう語る「気合いを入れようぜ」と。

これにチヒロも応え、チヒロの決意がさらに強固なものとなる。

61話 「夜戦」あらすじ

膠着状態が続く神奈備・毘灼・座村の三つ巴の戦いの中で、物語は新たな展開を迎える。

チヒロが巻墨の主となる。

座村清市の弱点として浮かび上がったのは、意外なことに座村の「娘」の存在である。

チヒロたちはこの情報を鍵に、戦局を動かそうと画策する。

座村の娘の存在とその背景
座村にはかつて一人娘がいたが、彼女は死んだとされており、その死因は急性心不全と記録されていた。

しかし、これは偽装であった。

巻墨たちは座村の護衛として初めて受けた任務が、この「娘の死の偽装」だったことを明かす。

この偽装により、娘は神奈備からの保護・監視の対象から外れ、一般社会で自由に暮らせるようになったのだという。

座村は、娘が自分のために危険な目に遭うことを避けるため、親子関係を犠牲にしてでも彼女の安全を優先した。

娘には特殊な妖術が施されており、周囲の人々が彼女を「座村清市の娘」として認識できなくなるばかりか、本人ですら自分が座村の娘であることを忘れる仕組みが施されていた。

この徹底した偽装により、娘の存在は完全に隠されていたが、毘灼が座村を打倒するための「保険」として娘を狙ってくる可能性が示唆される。

座村自身も、娘が死んだと信じ込むほどの完璧な偽装であったが、毘灼の妖術師たちの高い能力を考えると、封印が破られる危険性を否定できない。

京都への動き
座村の娘が現在京都で普通の学生として生活していることが判明し、チヒロたちは娘に接触すべく京都へ向かう決断を下す。

この接触は、娘を保護するだけでなく座村と毘灼双方への牽制となる狙いがある。

一方で、京都には既に毘灼の妖術師が潜入しており、彼らもまた娘を標的としている。

新たな敵、毘灼の妖術師たち
京都で登場する毘灼の妖術師は二名。背中に妖刀を背負った高身長の妖術師の久々李(くぐり)と、女性の妖術師の斗斗(とと)。

彼らは毘灼の命を受け、座村の娘を見つけ出そうとしているが、現時点では彼女の正確な居場所を掴んでいない。

毘灼の幹部・幽は「向こうから尻尾を出すだろう」と発言しており、娘をおびき出すための待機策を採っている様子がうかがえる。

巻墨と千鉱の関係
巻墨は、チヒロに対して過保護な態度を見せ、チヒロを困惑させる場面も描かれる。

巻墨は娘に施された封印が健在であるかを定期的に監視しており、現時点では問題ないと報告している。

しかし、状況が変化すれば即座に対応が必要となる。

戦局の展望
膠着状態が続く中、座村の存在が毘灼の一般市民を巻き込んだ戦争を抑制する大きな力となっている。

座村を失えば、毘灼が一気に動き出し、最悪の事態が引き起こされる可能性がある。

このため、チヒロたちは座村の娘の安全を確保することで、毘灼への圧力を維持しつつ戦局を有利に進めることを目指している。

62話 「イヲリ」あらすじ

イヲリの秘密
座村の娘・イヲリの日常生活が描かれる第62話。

母子家庭で普通の女子高生として暮らすイヲリ。

父親(座村清市)は、イヲリが生まれる前に蒸発したと聞かされていた。

しかし、実際には記憶を封印された座村清市の娘であり、その素性は厳重に隠されていた。

梟(ふくろう)の渦雲
3日前から、日本全土の空が梟(ふくろう)のような渦雲によって覆われ、その不気味な現象により学校も一時休校になるなど世間は混乱していた。

実は、この梟は座村の妖刀「飛宗」の能力で、日本中にこの特殊な梟のような雲を張り巡らせることで、妖刀の存在を探知する“妖刀探知機”としての役割を果たしていたのである。

そのため、妖刀契約者たちは自分の妖刀の位置が座村に把握されてしまうことを警戒し、やむなく妖刀を手放したまま戦わざるを得ないという、非常に不利で過酷な状況に追い込まれていた。

ただ、神奈備(カンナビ)が梟に「害はない」と発表したことで一般の人々の日常は取り戻されつつあったものの、イヲリは梟が現れて以来、3日連続で不思議な夢を見るようになる。

夢の内容は封印の影響で思い出せないが、幼い頃に父・座村清市に手を引かれる場面が断片的によみがえる。

久々李の襲撃
そんな中、毘灼(ヒシャク)の刺客である久々李(クグリ)が学校に現れ、座村の娘を探して暴力的な捜索を開始する。

校門で教師を殺害した久々李は、そのまま一気にジャンプし窓を割って教室に乱入した久々李は、座村の血を手がかりに女子生徒たちを調べようとする。

クラスメイトの井倉(いくら)が抵抗を試みると、久々李は容赦なく攻撃を仕掛ける。

その瞬間、イヲリは咄嗟に井倉を守るため身を投げ出す。

救援の到着
この行動に久々李は興味を示すが、イヲリの血を調べようとした瞬間、神奈備御庭番・座村親衛隊「巻墨」の隊長とチヒロが到着し、チヒロは久々李にすかさず斬りかかる。

チヒロが久々李と交戦する間に、巻墨の隊長がイヲリを保護する。

そこで判明したのは、イヲリ自身が無意識のうちに封印をこじ開けようとしており、その綻びが毘灼の索敵に引っかかったという事実だった。

「巻墨」の隊長は「座村さん…子供を侮っちゃいけねえよ」と呟き、毘灼からイヲリを守ることを決意したところで物語は幕を閉じる。

63話 「車追跡(カーチェイス)」あらすじ

救出作戦開始
初めに巻墨隊長の郎(ロウ)は、イヲリを教室から避難させようとするが、イヲリは仲間を救おうと教室に戻ろうとする。

郎は、毘灼がまだイヲリを標的と確信していない状況を利用し、あえてイヲリを標的だと示すことで級友たちを危険から守る策を講じるよう諭した。

郎は、巻墨の炭(スミ)を呼ぶことで、その場を切り抜けようと試みる。

炭は、巻物から妖術でバイクを呼び出し、イヲリを後部に乗せて迅速に現場を離れる。



チヒロの葛藤
一方、教室では久々李とチヒロが対峙していたが、クラスメイトから「歌舞伎の殺人鬼」と呼ばれたことでチヒロの動きが鈍る。

その隙を突いて久々李は教室を離れ、イヲリの追跡を開始!

毘灼の一団は車でバイクを追いかける。

巻墨の杢(モク)はチヒロの様子を見て「作戦”気楽に”」を提案。

チヒロに先回りを指示し、自身と隊長の郎で後方から支援することを決める。

チヒロは歌舞伎劇場での事件で一般人を巻き込んだことを引きずっていたが、杢の言葉で少し気持ちが楽になる。

激しいカーチェイス
カーチェイスが繰り広げられる中、巻墨の隊長・郎が手裏剣と爆弾を駆使して毘灼の車を破壊するも、久々李は車から飛び出し驚異的な速度でバイクを追跡し続ける。

追撃の途中、進路を遮るバスが現れるが、久々李は躊躇することなくバスを一刀両断!

これによりバスの乗客の命が危険に晒されるという暴挙に出る。

追跡劇の最中、先回りしていたチヒロが久々李の前に姿を現し物語は新たな緊張を迎える。

チームワークの大切さ
チヒロの回想シーンでは、郎がチヒロに「一人で全てを抱え込むな」と諭す場面が描かれる。

チーム全体で不安や焦りを分かち合うことの大切さを説く。

久々李に追いつかれそうになったとき、炭がバイクを急反転させ、バイクに仕込まれていた刀をチヒロに投げ渡す。

チヒロはその刀を受け取り久々李と対峙する。

久々李は「動けるじゃないか」と笑みを浮かべる。


チヒロの成長
一方、郎と杢はバスから投げ出された乗客全員の救助を成功させる。

チヒロは仲間と協力することで、一般人を巻き込むことなく戦えることを実感する。

「少し身軽になった」というチヒロの言葉に、巻墨の皆のおかげでチヒロの精神面の成長の兆しが見えたところで物語の幕は閉じました。

64話「ビカム侍」あらすじ

チヒロvs久々李
チヒロは、巻墨のスミがバイクに乗りながら渡してくれた妖刀「淵天」の鞘を手にする。

一方、久々李は活気あふれる剣士チヒロとの戦いを心から望んでいた。

チヒロの記憶には、六平家が毘灼の襲撃を受けたときの光景が鮮明に残っている。
その際、今回イヲリを捕らえに来た毘灼の刺客である久々李たち二人の姿は見当たらなかった。

ついにチヒロと久々李の斬り合いが始まる。

チヒロの心中
かつて、座村清市の圧倒的な剣術の前に敗北を喫したチヒロ。

座村に「復讐をやめて刀を置け」と言われたことが今も記憶に刻まれている。

復讐の資格を失った自分を受け入れる一方で、これまで数多くの場面で無茶をして体を張ってくれたハクリの助けに救われた事実も痛感していた。

自身の未熟さが招いた現状を認めざるを得ない。

妖術の基盤は身体強化にあり、玄力を巡らせることで超人的な力と耐久力を得る。

それをさらに応用し、刀にも玄力を巡らせることで剣技が強化される。

斉廷戦争時の妖刀契約者たちは、戦前から剣豪として名を馳せていた。

剣術歴3年のチヒロは、まだまだその域には達していない。

しかし、「淵天」との親和性は極めて高く、剣術を極めれば妖刀使いとしてさらなる高みに到達できると確信している。

そして、妖刀に頼りすぎていた自分を省みた結果、「妖刀を抜かずに実践する」という選択に至った。

一方、巻墨隊長であるロウは、否応なく明かされたチヒロの現在位置をカバーするため、彼を援護することを心に決める。

剣術の流儀
チヒロと久々李の刀が激しくぶつかり合う。久々李は玄力を伴う熟練の剣術のみで戦いを繰り広げていたが、チヒロは久々李に到底及ばないと感じ始める。

久々李はチヒロの未熟さに気づき、剣術を誰から学んだのかと問うが、チヒロは独学でここまで来たと答える。

そして、「今ここで剣術を磨くつもりだ」と宣言する。

これを聞いた久々李は、過去に幽から昼彦への剣術指導を頼まれた際、「俺は感覚派だからいい」と断った昼彦の言葉を思い出す。

実践での成長を重視するチヒロの姿勢や感覚派の昼彦に対し、剣術の流儀を蔑ろにするのは許せないと憤りを感じ、「剣術をなめるならやめろ」と、一喝する。

そして、良い斬り合いができるはずもないと感じ、チヒロを見限ってその場を去り、再びイヲリを追い始めた。

居合白禊流(びゃっけいりゅう)
剣術の基礎が荒削りなチヒロだが、3年の戦闘経験を通じて鋭いセンスと確かな身体能力を培っていたのは事実だ。

ただ一つ欠けていたのは「模範」だった。

久々李のように流動的に玄力を刀に巡らせることはできないが、単発の「型」であれば玄力を組み込むことができる。

チヒロは過去に身をもって座村清市の剣術を受け戦いに敗れた!

そう、自身のからだで既に学んでいたのだ!

座村の「居合白禊流」を!

「居合白禊流」は、鞘に玄力を限界まで溜め込み、抜刀と同時に放出することで、一瞬にして最大限の力を解放する抜刀術である。

その辿り着く先は「最速」である。

覚醒
チヒロが「居合白禊流」を用いると、一瞬で久々李に追いつき、刀の衝突音が響いた!

久々李は自らの喝を受け入れ、見よう見まねでもしっかりと流儀の「型」に忠実に挑もうとするチヒロを嬉し思った。

自己流の風変わりな剣術を望んだ昼彦と対照的に、チヒロは流儀の「型」に沿ってきたのだ。

この姿勢に久々李は再び心を動かされ強力な「斬欲」には勝てず、チヒロとの本格的な一戦を望みイヲリを追いかけるのをやめてチヒロのもとへ。

そして戦いの最中、バイクで逃げるイヲリとスミは久々李を巻くことに成功したところで物語の幕は閉じた。

65話「見真似」あらすじ

久々李の斬欲からのチヒロへの襲撃
斬欲に負け、我慢の限界を迎えた久々李はチヒロに斬りかかる!

チヒロは自身の「居合白禊流(びゃっけいりゅう)」の未熟さを痛感しながらも、戦況を冷静に見極め、最善を尽くそうとしていた。

久々李はチヒロの構えを見ただけで「白禊流」だと気付き、師事しているのは漆羽か座村か問うも、チヒロは師事はしていないと応える。

「居合白禊流(びゃっけいりゅう)」は孤高の居合術である。

「居合白禊流」は、極めて高度な技術を要し、単純な理屈ながらも習得には特殊な所作が不可欠とされているからだ。

ゆえに、剣客・白廻逸夫(しらかいいつお)が考案して以降、その免許を得たのは座村清市(さむらせいいち)と漆羽洋児(うるはようじ)の二人しか存在しない。

久々李は、チヒロが師事していないと主張することに疑念を抱き、その技術を独学で習得することはあり得ないと断言する。

六平家の観察眼
過去の回想の中で、座村清市はチヒロが彼の剣技を一度見ただけで模倣できたことに驚き、柴登吾もその観察眼の鋭さを六平譲りだと評していた。

千鉱の家系に受け継がれた特異な観察眼は、刀匠として鋼の組成や温度変化を見極め刀の姿へと導いていく能力である。

チヒロの父・六平国重が、妖刀の原料である雫天石の安定化を可能にしたのも、まさにこの観察眼によるものだった。


この継承された特異の観察眼力は、チヒロの戦闘においても活路を得ていた。

回想から現在に戻ると、久々李は千鉱の剣技が『見様見真似』であるとは到底信じられず激昂していた。


一方で、巻墨の郎(ろう)は瞬間移動の為の魔法陣を完成させておりチヒロと共にこの場から離れた。

これからってトコだろーと残された久々李寂し気な声が響く。

刺客の斗斗と久々李は座村の娘の行方を見失ったことに苛立ちを募らせるも、索敵の結果も途絶え、朧げな位置すら捉えられない状況に陥っていた。

京都殺戮ホテルでの一時の安息
舞台は京都殺戮ホテルへ移る。

京都殺戮ホテル総支配人・戦国与次郎は、当ホテルが最高級の休息を提供する場であり、危険の介入は一切許されず、ホテル内の結界がプライバシーを厳守する旨を告げる。


巻墨の炭(すみ)はこのホテルに滞在すれば索敵から逃れられるが、それも時間の問題であると冷静に分析していた。

束の間の休息の中、郎は座村さんの娘イヲリに自己紹介をし、彼女を安心させようとする。

しかし、イヲリはチヒロをテレビで見たことがあり、チヒロのことを殺人鬼だと思っていたが、誤解かもしれないと疑問を抱く。

チヒロは彼女に対し、自分は人殺しであり、彼女とは同じではないと告げ、その上で彼女の安全を守り抜く決意を新たにしていた。

封印の施策と郎の提案
郎の最優先事項は、彼女の安全確保だ。

今、彼女の記憶の奥底から父・座村清市の存在が浮かび上がりつつある。

その潜在意識に刻まれた執着は、封印をこじ開け、敵の追手を引き寄せるほどに強い。

これ以上の刺激は禁物!

だからこそ、彼女の前で座村の名を口にすることは厳禁だった。

準備には時間がかかるが、より強固な封印を施すことで、今度こそ彼女の記憶から座村の存在を完全に消し去ることをチヒロに提案する。

かつて、座村は語った…イヲリは戦争とは無縁のままでいるべきだ、と。

人殺しの父親の存在を忘れることが、彼女にとっての幸せなのだ、と。

郎は、座村清市のその言葉が今も心の中に深く刻まれている。

郎は、すべてが終われば彼女は24時間後には元の日常へ戻るのだと告げた。

イヲリの葛藤とチヒロの信念

イヲリは戸惑っている。

突然すぎる終わりの宣告に、納得できるはずもなかった。

理由もわからぬまま逃げ続けていた自分に、何も知らされないまま日常へ戻るよう命じられても、心に残る違和感は消えない…

そのとき、久々李が教室に現れた時に「サムラ」という名を口にしていたこを思い出す…

「サムラ…」どこかで聞いたことがあるような響きに、彼女の表情が強張る。

イヲリの曖昧な記憶の断片が浮かび上がる。

今まで「手を繋いでいた誰か」の存在が頭をよぎるたび、胸の奥に広がる不安と焦燥感に襲われ、忘れてはならない何かがあるのではないか――そう感じずにはいられなかった。

郎は冷静に説明を続けた。

記憶はイヲリ自身の安全のために封じられたもので、封印があるからこそ、今の生活が守られているのだ、と。

もし、それを知ってしまえば、敵の標的となり、二度と普通の暮らしには戻れない、と。

だが、イヲリの迷いは深まるばかりだった。

チヒロの決意とイヲリの選択
六平千鉱は静かに考える…もし自分が父と暮らしていなければ、普通に学校へ通え、命を懸ける日々など知らずに済んだのかもしれない。

それでも、チヒロは決して後悔していない…

あの父・六平国重との他愛のない日々を、心から大切だと思っていたから…

チヒロは、今、封印が解けたとしても、このホテルの結界内であれば敵の索敵に引っかかることはないと気付き、この状況を利用すべきではないのか――そう考えた。

郎はチヒロの意図を察し、わずかに眉をひそめる。

千鉱は覚悟を決め、彼女にすべてを話すことを提案した。

どのみち、封印が施されるまでの間、ここに留まらなければならないのだ。

ならば、真実を知ったうえでイヲリに選択の機会を与えるべきではないか。

郎の心は揺れていた。

もし彼女が記憶を取り戻すことを選べば、これまで隠し続けてきたすべてが水泡に帰すことになる。

敵は再び彼女を狙い、容赦なく襲いかかってくるだろう。

居合白禊流の体得への誓い
千鉱は確信していた。どんな選択をしたとしても、自分が彼女を守り抜くと。

かつての自分がそうであったように、彼女にも選ぶ権利があるはずだ――そう信じていた。

チヒロは、彼女の曖昧な記憶の中にいる「座村清市」について、知る限りのすべてを伝えるつもりだ。

そして、24時間後、封印の準備が整ったときに、自らの意思で忘れるかどうか決めればいい。

イヲリの選択がどんなものであれ、チヒロはその決意を受け止める覚悟をしていた。

郎は苦々しく千鉱を見つめながらも、チヒロの揺るがぬ決意を感じ取っていた。

イヲリの未来が、彼女自身の選択によって決まることを信じて――。

さらにチヒロは「居合白禊流」を必ず体得すれ決意する。

座村・漆羽以外、誰も習得できず絶滅寸前の伝説の「居合白禊流」を体得すれば「淵天(えんてん)」のさらなる本領を引き出し、イヲリの安全を守り抜くことができることを信じて――。

66話「真実」あらすじ

封じられた記憶
イヲリの心には、ずっと漠然とした寂しさがあった。

特に不満のない生活を送っているはずなのに、何かが欠けているような感覚が消えない。

チヒロが淡々と事実を告げていく。

サムラ・セイイチ……彼はイヲリの父親だった。

胸が強く波打つ…父親?自分には父の記憶などない。

幼いころから母と二人きりで暮らし、特に疑問を抱くこともなかった。

それなのに、どうしてこの名前がこんなにも胸に響くのか……。

郎が続ける。

イヲリはかつて、父と暮らしていた。しかし、その記憶は封じられ、今の名前も出生の記録も、すべて偽装されたものだった。

本当の名は座村イヲリ……。

思い出せない……けれど、頭の奥底で微かに揺らめくものがある。

ぼんやりとした、けれど確かに存在する記憶の残滓……。


斉廷戦争と英雄の影
チヒロは、静かに問いかけた。イヲリは斉廷戦争について、どこまで知っているのかと。

二十二年前、南東の海域に突如として現れた小国。

そこは妖刀の原料となる雫天石の原産国だった。

生まれながらに雫天石への適性を持つその地の民は、未加工の状態でも弾けることのない肉体を持ち、それゆえに強大な戦力を生み出していた。

そして小国への侵攻が本国より始まった。

六平国重による妖刀開発
剣聖と五人の剣士の躍動を以てして、侵攻から一年五か月後、小国の敵は討伐された。

戦争は長引いたが、最終的に決着をつけたのは剣聖と五人の剣士!

敵の弱点を突き、戦場で最速の剣を操るその剣士こそが、座村清市……イヲリの父だった。

“戦場の死神”とも呼ばれた彼の剣は敵にとって脅威であり、その娘であるイヲリは敵対勢力にとって格好の標的だった。

だからこそ彼女の記憶は封印され身元は隠されたのだと、郎は説明した。

それでもイヲリには納得できなかった。

なぜ記憶を消さなければならなかったのか。

なぜ父と離ればなれになったのか。

そして、今はどこにいるのか。

郎の表情が曇る。

父もまた、記憶を封じられていた。

衝撃が走る。

自分だけでなく、父も……?

六平千鉱は静かに語る。

座村清市の名は、称賛とともに呪いのように付きまとうものだった。

どれだけ人のために剣を振るったとしても、“座村清市の娘”として生きることは、あまりにも多くの苦難を伴う。

だからこそ彼女には、普通の人生を生きる選択肢が与えられたのだと。

まだ、すぐに答えを出せることではない。

六平千鉱は、彼女に時間を与えた。

「俺たちは備えるのみだ」

そう言い残し、静かに去っていった。

京都殺戮ホテルの夜
三十五階の屋上で、杢は空を見上げて呟いた。

今夜は長くなりそうだった。

炭が淡々と答える。

完全に座村清市の記憶を封じるため、すべての情報を改めて整理しなければならない。

杢は屋上を見回し、訝しげに眉をひそめる。

なぜわざわざ屋上なのか、と。

館内では妖術の使用が禁止されている。

理由は単純だった。

このホテルは裏社会の人間が集う場所であり、安易に力を振るえば、すべての均衡が崩れる。

さらに、ここの従業員は皆、総支配人・戦国与次郎の門下生であり、礼玄一刀流の免許皆伝。

敵に回せば、ただでは済まない。

杢は軽く肩をすくめた。

ますます厄介な場所に足を踏み入れてしまったらしい。

静かなる監視者たち
一階の広間では、昼彦が深いため息をついていた。

斗斗が短く言い放つ。座村清市の娘がこの建物内にいるのかと。

昼彦は曖昧に首を振る。まだはっきりした手がかりはないが、隠れている可能性の高い場所は限られている。久々李にも手伝わせて、徹底的に探すしかない。

そこへ、ホテルの従業員が静かに近づき、低い声で告げる。

館内では妖術の使用が禁止されている、と。

一瞬の出来事だった…昼彦は持っていたカンザシで従業員の首をはねたのだ…

昼彦の剣術のみで戦う覚悟
妖刀「酌揺(くめゆり)」は使わない…今使っても座村に見つかって殺されるだけだ座村清市の強さはわかっていると呟く。

昼彦は剣を手に取る。

わかっている、と言いたげに軽く頷いた。

動かなければ、ただ殺されるだけだ。

斗斗が短く吐き捨てる。

このホテルが、ただの舞台装置で終わることはない。

ここで何かが始まり、そして——終わる。

昼彦は妖刀も妖術もなく、ただ剣技のみで挑むつもりらしい…

イヲリの知らない場所で、静かに戦いが始まろうとしていた。

すべてが交錯する京都殺戮ホテルの夜——彼女の運命が、大きく動き出す瞬間だった。

67話「ザ殺戮ホテル」あらすじ

チヒロの運命
昼彦は、ずっとチヒロの死亡の報せに打ちひしがれていた。

京都殺戮ホテルの一階玄関広間で、昼彦は友人の斗斗に問いかける。

チヒロは本当に生きているのか。

斗斗が頷き、チヒロが座村の娘の護衛をしていると話すと、昼彦の中に新たな力が湧き上がった。

涙を浮かべながらも、今、昼彦はやるべきことに集中する決意を固める。

戦国与次郎
京都殺戮ホテルの総支配人・戦国与次郎が目の前に現れ、昼彦と斗斗はその圧倒的な存在感に驚かされる。

戦国与次郎は、ホテルと共に受け継がれてきた剣術、「礼玄一刀流」の達人であり、彼の存在はその場の全員を圧倒する力を持っていた。

斗斗は、従業員が全て剣士であることに気づくが、実力はまちまちだと感じる。

特に危険な人物として意識するのが、五十人以上の門弟を持つ大師範である「戦国与次郎」だった。

剣術の試練

昼彦は、自分と戦国与次郎の剣術に大きな差があることを痛感する。

しかし、昼彦は一人でも戦えることを誓った。

戦国与次郎もまた、自身を「ホテルの歴史」と称し軽々しく挑む者には容赦しないと示していた。

斗斗は、昼彦の果敢さに一抹の不安を感じつつも、その意気込みを黙って見守る。

チヒロとイヲリの対話
一方その頃、客室ではチヒロが座村イヲリと穏やかに話していた。

チヒロは夜通しイヲリの見張りについていたことを明かし、過去の経験から得たものを語り始める。

イヲリは、自身の過去の平和な生活を思い出し、目の前にある二者択一の選択に戸惑いを隠せないでいた。

チヒロは、自らの境遇が彼女と少し似ていることを伝え、辛くとも真実を選んで生きることの価値を共有したいと心から願っていた。

危機の訪れ

突然のノックの音と共に、見知らぬ男がチヒロとイヲリを刃物で襲う。

部屋を訪れた男は、2人のどちらかにかけられた賞金を求めて来たと告げる――何かが起こっている。

チヒロは、イヲリに身を守るように指示を出し、自らも剣を握り警戒を強めた。

そこにいて、と言い残し、チヒロは剣を手にして慎重にドアを開け廊下に出ていった。

チヒロの刃が閃くと、瞬く間に十数人の男たちが斬り伏せられた。

チヒロは周囲を確認し、危機が去ったことを確かめたが、イヲリはまだ不安を拭えずにいた。

彼女の問いに対し、チヒロは冷静に、人を殺すことへの恐怖はないと答える。

彼にはこの生き方しかなく、イヲリには座村の娘として生きる道がある。

どちらが正解かではなく、自分がどうしたいかが重要なのだと伝えた。

イヲリは考えた末、普通の生活を取り戻し学校へ戻ることを決意する。

その姿を見たチヒロは、自らの運命を受け入れる。

そして…エレベーターの扉が静かに開く…そこに立っていたのは、左手に戦国与次郎の首をぶら下げた昼彦だった。

復讐の道を征くチヒロには、退路はなく、ただ突き進むのみだった…

68話「変幻」あらすじ

再会
京都殺戮ホテルエレベーターホールには、六平チヒロ、昼彦、そして座村イヲリの三人が居た。

昼彦の左手には、血の滴る戦国与次郎の首が、まるで戦利品のようにぶら下げられている。

チヒロは静かに、しかし怒りを押し殺した声で問い詰めた…ホテルの客が襲ってくるのはお前の仕業かと。

昼彦は肯定する。

そして、チヒロたちの部屋の位置は支配人・戦国与次郎の脳から直接聞き出した…

このホテルに集う宿泊客は過激な連中ばかりで、皆がこのフロアへ向かっているだろう…

支配人というタガが外れた今、狂宴が始まる…と昼彦は語った。

昼彦は、イヲリを見て生まれてきてくれてありがとう、と囁くように言った。

チヒロが視線を向けると昼彦は軽く笑いながら、まるで些細な用事を済ませたかのように 首を床へと投げ捨て、その瞬間鋭い閃光が走り、投げ捨てられた首は空中で真っ二つに斬り割かれ血飛沫が辺りに飛び散った。

そしてチヒロに語りかけた…座村の尻拭いをさせられている今まさに座村が契約者殺しに動こうとしているのだと。

チヒロは、イヲリを庇うように前に出た…この子には何もさせない、関係ないと。

その言葉と同時に、チヒロは昼彦と自身が乗っているエレベーターの天井ごとエレベーターワイヤーを妖刀で斬り裂いた。

エレベーターは制御を失い、二人の運命を乗せて猛スピードで奈落の底へと落ちていく。

狂宴の始まり
エレベーターホールには、イヲリが一人残された。

他のエレベーターからは、大勢の刺客が押し寄せてくる。

イヲリは、震える声で呟いた…全然、大丈夫じゃない……!

その時、目の前のエレベーターが開き、中から巻墨のリーダー、郎が現れる。

郎は、イヲリにエレベーターの中に入るよう促しイヲリは従った。

郎は鋭い眼差しを向け、一瞬のうちに全ての刺客を斬り伏せた。

静寂が戻ると、彼は振り向きエレベーターの中へと戻ってきた。

封印の代償
エレベーター内の静寂の中で、彼女の心に渦巻く疑問が声となる。

封印を施せば、すべてが元通りになるというが、本当に普通の女子高生に戻れるのか…

学校はバレた…

悪い人たちに顔も知られた…

一人になり、先生まで失ったのに、何事もなかったように日常へ戻れるのだろうか…

郎は答える…こっちの作業は完了した、君はすぐにでも普通の女子高生に戻れる、と。

イヲリは、自分が封印を解こうとしたせいで先生が犠牲になったのだと悔やんだ。

郎は、それは違うと否定する……罰せられるべきは毘灼の連中であり、落ち度があるとすれば巻墨にあると。

そして、未熟だった封印を今度は意識の根源まで封印できると説明した。

イヲリが鍵について尋ねると、郎は大規模な結界とその動力源である灯籠について語った。

そして、鍵は総支配人が持っていたはずだが、チヒロが下に降りてしまったと。

イヲリは、下に降りたというか……と言葉を濁した。

郎は、静かに言った。あいつに任せようと。

奈落の底で
一方、落下するエレベーターの中、重力が消えたかのような無重力空間。

その異様な状況の中で、 チヒロと昼彦の死闘が繰り広げられていた。

そして、ついに エレベーターは1階へと激突する!

しかし、そこに倒れ伏す者は一人もいない。

チヒロと昼彦は、傷ひとつ負わずに立っていた。

チヒロは、昼彦の変則的な剣術を警戒していた。

昼彦の剣術は、玄力が乗った強力な斬撃だが刀をほとんど使わない型にはまらない自由な剣!

そこへ突如、従業員が駆け寄り、チヒロに総支配人からの預かった灯籠の鍵を手渡す。

戦国与次郎という男
戦国与次郎は自身が7年間毎日剣術の鍛錬に励んできたにも関わらず、昼彦の剣はあまりにも不可解で、防ぎようがなかったと、従業員が語り始める。

戦国与次郎は、この世に天才などいない堅実な努力の積み重ねこそ何者にも勝ると教えてくれた。

しかし、目の前で天才的な剣技を振るう昼彦は、その言葉を嘲笑うかのように戦国与次郎を切り刻んだ。

従業員は、恐怖に震えながら言った。あいつの刀は見えない…と。

昼彦の剣術

チヒロは、昼彦の不可視の剣術の正体を見抜いた。

右手左手、順手逆手。自由な切り替えが死角を作り、受け手は刀を見失う……変則的な剣筋でチヒロに襲いかかる昼彦!

千紘はそれを辛うじて防ぐが、昼彦はさらにカウンターを仕掛けてきた。

昼彦は、千紘の殺意を褒め称えた。いいね、と。

千紘は、白禊流でさらに速くならないといけない、と焦りを感じていた。

そして、この鍵を持ってイヲリを日常へ戻すと心に誓う。

イヲリの決意
エレベーターの中では、郎がイヲリに心境を尋ねていた。

学校に戻ると決めたんだね?

イヲリは、考える…

座村清市の娘ではなくなる…

事実を拒みたいわけではない…

父は、別のことに夢中らしい…

今の彼は、契約者殺しに動いている…

父は私のこと忘れても平気なのかな…

私だけが勝手に心の穴にもがいていたんだ……と。

それでも、イヲリは学校に戻ると決意し…はい、と返事をして物語は静かに幕を閉じた。

69話「傷の男」あらすじ

京都殺戮ホテルで交錯する運命
京都殺戮ホテルの屋上。

杢は郎に声をかけ、チヒロの所在を尋ねる。郎はチヒロが下に鍵を取りに行ったこと、支配人が殺られたことを告げ、鍵が来次第、イヲリを日常へ戻すための封印が始まるという。

座村イヲリの心中は、どちらの自分になるのかという葛藤で満ちていた。

彼女の父・座村清市は、自分のような存在を求めてはいない……。

このまま学校に戻るのがいいのだと自分に言い聞かせるが、自分が封印を解こうとしたせいで悪い人たちが来たのだと思い悩む。

一方、郎の心中もまた、自身の力不足を責める思いでいっぱいだった。

封印を一度失敗してしまったため、彼らの言葉には説得力がなくイヲリに責任を感じさせてしまっているからだった。

迫る敵の影と戦場の混乱
そのときエレベーターの扉が開き久々李が姿を現した瞬間、郎は久々李に斬りかかる。

杢は屋上の空気を張り詰めるように見つめながら、抑制の枷が外れたゾンビのような敵の動きに疑問を抱いた。

致命傷を受けてもなお、食らいついてくるゾンビのような奴ら!

これは仙沓寺のときと同じだ。誰かが洗脳しているのか……それとも毘灼の妖術なのか。

個々の力はあのときほどではないが数が圧倒的に違う。

ホテル中に響き渡る怒号!廊下の向こうから、こちらへ向かってくる足音!ホテル中の人間が、まるで狂ったように座村イヲリを探し回っている。

郎は敵の焦りを感じ取る。増援を送るほどに、追い詰められているのは向こうかもしれない。

久々李は、冷ややかに言葉を返す。すぐに余裕がなくなるぞ、と。屋上にはすでに多くの敵が押し寄せていた。

炭がイヲリの肩をそっと抱き、大丈夫だと告げる。言ったはずだ、指一本触れさせないと。

イヲリは震えながら思う。このままでは、この人たちは自分のために命を張り続ける。すべては自分がいるせいで、誰かが傷つくのだ。どちらの真実にも、自分はいないほうがいいのかもしれない——と。

井倉の決意と過去
イヲリの同級生、井倉の回想が蘇る……。

学校に久々李が現れ、イヲリをさらおうとしたときのこと……彼女の同級生である井倉は、血を流したくなければじっとしていろというチヒロの言葉を受け止めながらも、その忠告だけでは納得できなかった。

放っておけるはずがない!

井倉は、左こめかみに自らの左手の傷の血を塗ってチヒロの傷を再度再現させ使命の証とし、自らの勘を頼りにイヲリが囚われている場所を探し続けた。

京都の闇に沈むようなホテル…その中で起こる殺戮……聞こえてきた朧げな会話の中に、増援、生捕り、上、娘、イヲリ……その名前があった。イヲリはここにいる——。

井倉の脳裏に浮かぶのは、クラス中の生徒から嫌われていた自分に、ただ一人分け隔てなく接してくれた少女の姿だった。

イヲリにとっては些細なことだったのかもしれない……しかし、井倉にとって、それは特別なことだった。

託された鍵
場面は殺戮ホテルの一階。

チヒロは昼彦と対峙していた。

そんな二人の間に、井倉が現れる。

昼彦が訝しげに問いかける。

チヒロも、彼の姿を見て驚きを隠せない。

井倉は強く拳を握りしめ言葉を絞り出した……イヲリを助けに来たのだっと。

危険すぎると制止しようとするチヒロを前に井倉は声を張り上げる…傷だらけになったって構わな……だから来たのだ、と。

その覚悟を見たチヒロは、一つの決断を下した。屋上へ向かうための鍵。それを彼に託したのだ!サングラスをかけた子供のもとへ届けろ!イヲリは今、何者でいればいいのか揺れている。その手を引いてやれるとすれば、こいつかもしれない——とチヒロは思った。

行け、とチヒロは叫ぶ。井倉は迷うことなく頷き、エレベーターへ飛び込んだ。

井倉の叫び
場面は屋上へと移る。

イヲリの心は沈んでいた。自分には、居場所などない…。

そんな彼女の耳に、井倉の声が響く。

イヲリがいないと困る!!彼の叫びが、彼女の世界を揺さぶった。

増援か、と久々李が動く。

郎は、なぜあいつが鍵を持っているのかと驚きを隠せない。

次の瞬間、ホテル中の敵が井倉へと襲いかかる。

だが井倉の、その叫びは確かにイヲリへ届いていた。

イヲリの覚醒と新たな道
学校生活を守りたい——その想いが座村清市の娘としての彼女を覚醒させる。

イヲリは即座に刀を手に取り、迫りくる刃を受け止め井倉を護る。

その瞬間、彼女は初めて自分の存在を選び取ったのかもしれない。

この熱いシーンとともに物語の幕が下りる。

70話「居合白禊流」あらすじ

託された傷の男
殺戮ホテルの1階では緊迫した状況の中、チヒロが井倉に対し急いで屋上に行き、イヲリを取り戻すための鍵を渡すようにと指示を出していた。

対峙する昼彦は、イヲリを逃がす何らかの策があるのだろうと気付き、それに応じてこちらも屋上を目指すしかないと状況を把握している。

チヒロは、昼彦を止める覚悟を決め、その行く手を阻もうとしていた。

居合白禊流の真髄

居合白禊流の考案者『白廻逸夫』は語る

白廻逸夫
『剣客、白廻逸夫(しらかい いちお)は考えた。最速こそ最強である。最速を求め、白廻が提唱した構えはこうだ。この構えこそが対象に向かう推進力を最も生み、最高速度に乗った状態のままの斬撃を可能にすると白廻は言う。それもそのはず。剣術・居合における常識は刀をしっかりと握り込むことで溜めた力を逃さないこと。その故、刀の持ち方はこのように中手骨頭側に刃が向くように握るのが標準。抜刀からそのまま攻撃に移るためには当然である。白禊流の構えは異質。よって抜刀から対象に届くまでに刀を手の中で半回転させなければならない』

  周りの人達の声
「抜刀の直後に”持ち替え”が必要だと?せっかく込めた玄力が乱れて逆効果だ」
「そもそも、その構えが最速を生む理屈すら怪しい」
「普遍的な抜刀術でも極めれば、かなりの初速が出る、そちらを目指す方が利口だ」
「手間をかけて無駄なことをする気だよ、この男は!」

白廻逸夫
『まぁ、結局…浪漫を笑った奴ァ残らず最速に斬られて死んだ』

居合白禊流の考案者である白廻逸夫の思索が語られる。

彼は「最速こそが最強である」と考え、剣術の新たな構えを提唱した。

これは対象へ向かう推進力を最大化し、最高速度での斬撃を可能にする構えだとされる。

通常、居合においては刀をしっかり握り込み、力を逃がさない持ち方が常識とされる。

ところが、白禊流は刀を手の中で半回転させるという異例の動きを要求するのだ。

それに対し、周囲からは、持ち替えの過程で玄力が乱れてしまうのではないかという疑問の声が上がった。

理論的にも最速を生むと言い難いと批判され、無駄な手間だと笑われた。

しかし、白廻逸夫は、自らの信念を貫き、それを笑った者たちは最速の斬撃によって打ち倒されていった。

千鉱の修練と課題
数時間前、チヒロは息を切らしながら、まだ技術を完全には掴めないと頭を抱えていた。

問題は持ち構えの未熟さにあり、それが速度と威力を損ねていることを自覚する。

巻墨のリーダー「郎」は、白禊流の欠点を体験していると指摘し、玄力の意識を超越した自然体で刀と一体化することが必要だと語る。

これは感覚的な話であり、できる者は変わり者だと形容される状態である。

白禊流の習熟者が少ないのも当然のことである。

だがチヒロは、玄力を通じて刀と馴染む感覚をなんとなく理解し始めており、あと少しでコツを掴めるのではと思っていた。

千鉱と昼彦の激闘
現在のシーンに戻り、チヒロと昼彦の戦いは一進一退の攻防が続く死闘となっていた。

チヒロは昼彦が自由に持ち替えを行っても剣の威力を失わないことに気付く。

昼彦は、幼い頃に殺人に手を染めて以来、戦闘本能が研ぎ澄まされ玄力を自在に操っていた。

それはまるで呼吸をするかのように自然で、もはや意識すら必要としていないかのようだった。

チヒロは、そんな昼彦の型に囚われない動物的なまでに自由な剣技に翻弄されていた。

その自由で本能的なスタイルは、まさに究極の自然体を体現していたのだ。

チヒロは、昼彦に対しても負ける理由はないと確信を持っていた。

自身も授かった特別な眼を持っており手本を信じれば勝機は見えていたからだ。

昼彦は、チヒロの剣術を古き良き型だと揶揄しつつ、白禊流の難しさを実感しながらもイヲリの確保を優先しエレベーターで屋上を目指す。

チヒロもまた昼彦を追うように、すぐ隣のエレベーターへと乗り込んだ。

それぞれが異なる箱の中で、同じ場所を目指している。

それぞれのエレベーターが屋上に到着し扉が開かれ再び千鉱と昼彦は、対峙し互いに際限を知らない戦闘の才を前にして“死”を予感する…

イヲリの剣技
屋上ではイヲリが大勢の男たちと戦っている光景が広がっている。

イヲリの戦いは、学校生活を守りたいという彼女の強い願いを実現するための手段で、その身体は本来の力を解放していた。

封印された力を取り戻し、剣技の手捌きを見せる姿にチヒロは驚愕する。

彼女の剣技は命を奪うためではなく、まじわる殺意を切り捨てるものであり、精緻で正確な動きにチヒロは目を見張る。

千鉱の覚醒
イヲリの戦いぶりを目にした千鉱は、衝撃を受ける。

なぜなら、彼女の動きは紛れもなく、手本である座村清市のそれと酷似していたからだ。

追い求めていた答えが、チヒロの目の前で鮮やかに体現されていた。

その瞬間、チヒロの中で何かが大きく動いた。

ついにチヒロは居合白禊流を完全に会得し昼彦を見事に斬り伏せた。

物語は、イヲリが真相を知る瞬間に向かって進んでいく。

71話「勝負」あらすじ

再会と葛藤
9年前、とある病院の一室。

イヲリの母・イノリは静かにベッドに横たわっていた。

そこに、勢いよくイヲリの父である座村清市が入ってくる。

座村清市は、イノリの容態を心配そうに尋ねた。

イノリは、静かに頷き部屋の隅で静かに佇む8歳の娘・イヲリに視線を向けた。

座村清市は、久しぶりに再会した娘に声をかけるが、イヲリは表情一つ変えず、ただ彼を見つめている。

イノリは、そんな娘に父親を紹介した。

入院生活を余儀なくされたイノリは、座村清市にしばらくイヲリの世話を頼むが、座村清市は自分には無理だと戸惑いを隠せないでいた。

彼は過去に大勢の人命を奪ったことから、娘を育てる資格があるのかと苦悩するが、イノリの強い言葉に促され彼女の願いを受け入れることにする。

英雄の娘
数日後、座村清市はイヲリを連れて馴染みの剣術道場を訪れた。

道場の警察官は、座村清市に娘がいたことに驚きを隠せない。

座村清市は照れくさそうに、これからしばらくイヲリを連れてくると皆に話す。

剣術練習生の警察官達はイヲリに、父親が街の警官たちに剣術を教えていること、妖刀の契約者であり戦争の英雄であることを熱心に説明した。

しかしイヲリは冷めた態度で、母親を置いていった男である父親には何の興味も示さなかった。

イヲリは幼い頃から、母親のイノリから父親は戦争のことばかりで家族を顧みない最低な男だと聞かされて育ってきた。

そのため、父親に対しては、深い不信感を抱いていたのだ。

ふたりの生活
イヲリは、そんな父親とふたりでの生活をスタートさせることになった。

ある日、剣術道場での稽古中、イヲリは目を閉じたまま竹刀を持ち座村清市に突進した。

彼女は、盲目である父親と同じ条件で戦おうとしていたのだ。

座村清市は、その心意気を認めながらも真似をする必要はないと諭した。

イヲリは、父親から剣術を学び稽古に励むようになる。

料理対決と母イノリの死
道場での稽古の後、イヲリは座村清市に料理対決を申し込んだ。

またもやイヲリは目を閉じ、逆手で包丁を持って料理を作ろうとした。

座村清市は呆れながらも、イヲリの作った料理を口にした。

予想外の美味しさに驚きを隠せない。

イヲリは得意げに、この料理は母親と一緒に良く作っていたことを明かした。

座村清市は、娘と共に過ごす温かい時間を大切に思うようになる。

座村清市は、イヲリに入院中のイノリを元気づけるための料理対決を持ちかけた。

どちらがより美味しい料理を作れるか、そしてイノリを笑顔にできるか、という勝負だ。

イヲリは、真剣な眼差しでその挑戦を受けて立った。

それからしばらく経ったある日、イノリは二人から手作りの弁当を受け取った。

彩り豊かで愛情のこもった弁当にイノリは心から喜んだ。

イヲリは、これからももっと美味しい料理を作ると約束した。

疲れたイヲリは、眠りについた。

座村清市は、寝顔を見つめながら、この一年間の娘の頑張りを心の中で労った。

イノリは、座村清市が料理ができるようになったことに驚きイヲリのことについて尋ねた。

座村清市は、娘が可愛くて仕方がないと優しい笑顔を見せた。

イノリは、娘の成長を見届けたかったと呟き…その後……静かに息を引き取った。

泣き崩れるイヲリの肩に、座村清市はそっと手を添えた。彼は、イノリの代わりに、イヲリの成長を見守っていくことを心に誓った。

イノリの死後、座村清市は男手一つでイヲリを育てていく決意をした。

毘灼のトップ幽の訪問
その後、座村清市の家の門前に謎の男が現れる。

毘灼の幽と名乗るその男は、座村清市の過去に犯した罪と、それが未来に及ぼすであろう厄災について語り始めた。

果たして座村清市が犯した罪とは一体何なのか?

そして示された未来とは? 物語は新たな謎を提示し次なる章へと進んでいく!

72話「未来」あらすじ

不吉な予言
座村清市の家の門で、座村清市(さむらせいいち)と毘灼の幽(ゆら)が対峙している。

幽は、座村清市に挨拶すると彼らが犯した罪と、それが数年後にこの国にもたらす厄災について話があると告げる。

座村清市は、元妻のイノリの通夜を終えたばかりで、今はそっとしておいてほしいと頼む。

しかし幽は、英雄である座村清市にどうしても礼を言いたかったと告げる。

幽は静かに語り始める。

斉廷戦争は、南東の海域に突如現れた小国からの侵攻によって始まった。

その小国の民は残虐で、雫天石(だてんせき)に適応する強靭な肉体を持っていたため、侵略の手は瞬く間に広がっていった。

しかし英雄たちと妖刀の登場により戦況は逆転する。

英雄たちは、敵を一人残らず討伐するという”掃討作戦”を実行し、この国を守ったのだ。

座村清市は、幽が単なる礼を言いに来たのではないことを見抜いていた。

幽は、英雄たちが成し遂げた”掃討作戦”の真実を知っていると告げる。

それは、民衆には決して語られていない、隠蔽された真実だった。

英雄たちの隠された真実
妖刀「真打・勾罪(しんうち・まがつみ)」の登場により戦況は逆転し、英雄たちは敵国へと攻め入った。

そして終戦も間近という頃、敵国は降伏の意思を示した。

しかし、戦場で多くの死を見てきた剣聖は、正気を失い最強の妖刀・真打「勾罪」を使って敵国を殲滅しようと暴走する。

剣聖の暴走と「蠱(こどく)」
「真打・勾罪」は、使い方によって姿を変える妖刀だった。

剣聖の狂気によって呼び起こされた「勾罪」の真の力は、「蠱(こどく)」と呼ばれるただひたすらに生命を奪う力だった。

その力はあまりにも強大で、剣聖は真打に呑み込まれ善悪の区別なく全てを破壊する厄災と化してしまう。

「蠱」は、瞬く間に敵国の約20万の命を奪った。

5人の妖刀契約者たちが命がけで食い止めたことで、ようやく「蠱」は鎮静化し剣聖は幽閉されることになった。

しかし、この国を混乱から守るため真実は隠蔽され剣聖は”敵国を打ち滅ぼした英雄”として祭り上げられたのだ。

幽は、この真実をどこまで知っているのか座村清市は不安を覚える。

しかし、幽は座村清市を責めるつもりはないと告げる。

彼がここに来たのは未来を守るため、そして、ある予言を伝えるためだった。

再び動き出す「蠱」の脅威
幽は、剣聖が生きている限り、「蠱」は再び起こると予言する。

そして、次はこの国が「蠱」の標的になるというのだ。

座村清市は、あまりのことに言葉を失う。

そこにイヲリが姿を現す。

イヲリは、二人の会話を聞いてしまい座村清市がどこかに行ってしまうのではないかと心配になる。

座村清市は、どこにも行かないとイヲリを安心させる。

命滅契約の足枷
場面は変わり神奈備本部。

座村清市は、神奈備の幹部を訪ね幽から聞いた真実を伝える。

神奈備の幹部は、その話を聞いても冷静さを失わず、「蠱」の再発は、天洛院の僧侶が見た夢と同じで明確な根拠はないと説明する。

しかし、剣聖と真打がこの世に存在する限り「蠱」が起こる可能性はゼロではない。その可能性を完全に消すためには、剣聖を処刑するしかない。

しかし、それは不可能だった。

なぜなら、剣聖と他の妖刀契約者たちは「命滅契約」と呼ばれる妖術によって繋がれているからだ。

剣聖が死ぬと、他の契約者たちも命を落とすことになる。

それは、戦に臨む彼らの覚悟の証であり、同時に、今となっては足枷となっていた。

座村清市は、このままではいずれ「蠱」が起こってしまうと訴えるが、神奈備の幹部は落ち着くように諭す。

剣聖と真打は厳重に隔離・封印されており、「蠱」が起こる可能性は極めて低い。

そして、神奈備は、残された契約者たちを英雄として守り、彼らが安心して未来を生きられるように尽力すると約束するのだった。

英雄の宿命と娘への想い
場面は再び変わり、剣術道場。

イヲリは、目を閉じたままで相手と対峙し見事に竹刀を叩き落とした。

その様子を見ていた練習生たちは彼女の才能に驚嘆する。

座村清市は、そんなイヲリに温かい眼差しを向ける。

イヲリは、父親に稽古の成果をアピールし、自分が最強になって父親を守ると宣言する。

座村清市は、娘の成長を心から喜び、その未来に希望を抱くのだった……。

73話「黎明」あらすじ

不吉な予感
何者かによって自宅の門の前に置かれたゴミ袋を片付けるイヲリの姿から第74話は幕を開ける。

剣術道場で、ある練習生が座村清市に声をかけた。

彼の娘イヲリが自分の息子と同じ組だという。

清市は短く返事をしながらも、内心では娘の学校生活に不安を抱いていた。

その練習生は、小さな町であり生徒数も多くないため、きっとイヲリはもう馴染んでいるだろうと笑顔で励ました。

イヲリへの想い
清市は帰宅すると、仏壇に手を合わせ、亡き妻イノリへ語りかけた。

イノリが亡くなり、イヲリが転校してからしばらく経ったが、やはり心配は尽きない。

イヲリの名字は変わっていないものの、自分の娘であることは周知の事実だった。

彼は、イヲリが時折寂しそうにしていることを思いながら、彼女が元気に過ごしていることを報告した。

そこへ、イヲリが帰宅し元気な声で夕食のメニューについて尋ねる。

清市はイヲリと一緒に晩御飯を作りながら学校の様子を尋ねた。

イヲリは嬉しそうに今日の授業で父のことを習ったと話す。

しかし、その言葉に清市は一瞬緊張した。

大丈夫だったのかと問いかけると、イヲリは明るく冗談めかして答える。

みんなにちやほやされて困ったほどで、自分はいつか父のような剣士になると宣言したのだと言う。

清市はその様子を見て安心しながらも、自分のようになろうと焦る必要はないと諭す。

しかし、そこでイヲリの頭には”たんこぶ”ができていることに気づいた。

理由を尋ねると、イヲリは転んだと答えるが清市には嘘だとすぐに分かった。

しばらく問い詰めた後、イヲリはようやく白状した。

クラスの男子と喧嘩をしたのだという。

相手の男子は、休み時間に「英雄といっても結局、お前の父親は人殺しだろ」と言ってきたのだという。

イヲリはそれに言い返し喧嘩になった。

清市は、自分に向けられた偏見が娘にも影響を及ぼしていることに気づき胸が痛んだ。

しかし、イヲリは毅然としていた。

彼女は毎日鍛えているのはこういう時のためであり、大切なものを守れるようになりたいのだと語った。

母であるイノリも清市のことをどうしようもない男だと思っていたが、それでも国を守った英雄として尊敬していたと言っていた。

それを受けて、イヲリも同じように大切なものを守れる存在になりたいのだと力強く言い切った。

清市はそんな娘の成長を感じながらも、無理はしないようにと優しく釘を刺した。

英雄の罪と町に広がる波紋
翌日、清市は道場で昨日の件を詫びた。

相手の父親も、自分の息子が失礼なことを言ったと謝罪し、子供の喧嘩だからと和解の意を示した。

しかし、そこに道場の者が駆け寄ってきて、学校から清市に連絡が入っているという。

イヲリを迎えに行くと、彼女は体調が悪いわけでもないのに早退していた。

理由を尋ねると、軽くサボっただけだと笑う。

たまにはいいじゃないかと言うイヲリに、清市は呆れながらも微笑んだ。

家に着くと、門の前に大量のゴミが捨てられていた。

清市は訝しみながら、それを片付ける。

イヲリもまた、門に書かれた落書きを消そうとしていた。

彼女は明るく振る舞いながら、文句を言うようにゴミを片付けるが、その瞳には何かを隠すような影があった。

その時、近くにいた男たちの会話が清市の耳に入った。

彼らは、門の落書きが以前よりひどくなっていることを話していた。

そして、英雄である清市に対する疑念が町に広まっていることについても口にしていた。

清市は彼らに詰め寄る。

ゴミを捨てたのはお前たちかと問いただすと、男たちは確かに関わっているが、町の他の者たちもやっているのだと言った。

そして、彼らは清市に向かって、半年前に広まったある情報について話し始めた。

孤独な闘いと壊れゆく日常
幽は、清市にその情報の正体を明かした。

それは、小国民の掃討作戦に関する極秘情報だった。

神奈備が証拠を消したはずのその事件の一連の記録と捏造された調印式の写真が町に流されていたのだ。

直接的な非難はないものの人々の疑念は増幅し、清市に対する評価はじわじわと変わっていった。

清市は気づく。

半年前、イヲリが小学校に通い出した頃にはすでにこの疑念は町に広がっていたのだ。

イヲリは、誰にも気づかれないように一人で戦っていた。

クラスメイトから「人殺しの娘」と罵られ、いじめを受けていた。

しかし、それを父に知られたくなかった。父に心配をかければ、また遠ざかってしまうかもしれない。

だから、すべてを隠し通し友人に距離を置かれても一人で耐え続けた。

涙を流しながら、門の落書きを消していくイヲリ。

自分が強くなれば、もう誰も遠くへ行かない…そう信じて…。

清市は、その現実を知り涙を流した。

イノリを失ってからの半年間、イヲリはずっと一人で戦い続けていたのだ。

そして…約一年半続いた父娘の生活は、イヲリが母イノリの妹の元に預けられることで、終わりを告げた。

未来への託し
時は流れ、場面は幼少期のチヒロの自宅。

座村清市と柴登吾が向かい合っている。

清市は「剣聖の罪を知る者」という言葉を口にした。

柴登吾は、爺さんから「蠱(こどく)」が再び起きるかもしれないという話を聞いたことを話す。

そして、剣聖と真打を隔離・封印している限りは心配ないということも理解していると付け加えた。

清市は言うまでもないが、六平親子のことは頼むと柴に依頼した。

守り抜いてほしい、未来のために……と。

その後のシーンでは、チヒロの父である六平国重が、毘灼の幽によって殺されるという悲劇が描かれ物語は結末を迎える。

74話「夜明け」あらすじ

六平国重の死と、不穏な訪問者
六平国重の家宅が襲撃され、彼が命を落としたという。

持ち出された妖刀、危険に晒される契約者たち…。

護衛が向かうからすぐに本部へ向かえと、そう伝えられる。

座村清市が受話器を取ると電話口から緊迫した声が響く…神奈備の職員からの通報だった。

現れたのは、組織・毘灼に属する男…幽だ。

清市は内心で素早く状況を読み取る…外にはさらに三人…完全に自宅は囲まれている。

受話器を置くと、自宅玄関には静かに影が立っていた。

相手は、国重を殺し妖刀を奪った連中…契約者としての自分も標的にされたのだと直感する。

幽は冷たい声音で、六平国重を殺したのは自分たちであり、すでに契約者を一人始末したと明かす。

そして、清市に「未来の話」をしに来たと告げた。

妖刀“真打”と封印の崩壊
応じなければ殺す……単純な脅しではない。

それでも、清市は反発する。

真打に施された封印は安定していた……安定が続くはずだったのだ…毘灼の横槍さえなければ。

だが、幽はその認識を否定する。

小国の国土には、今なお咲き続ける妖術の花が残っている…それは、剣聖である契約者の戦意が未だ消えていない証拠だと。

真打と剣聖……かつて想像を超えたその組み合わせの不安定さを、清市は心のどこかで理解していたのかもしれない。

幽の指摘は、情に甘えた自分たち契約者への糾弾だった。

幽は、自分の目的は剣聖を処刑し、真打を振るうことだと宣言する。

妖刀”真打”の能力である”蠱”は剣聖だからこそ引き出せる”真打”の”本領(リミッター解除)”だと聞いていると告げ、自分の目的はむしろ”蠱”を…厄災を止めることに繋がると主張する。

そう語りながら、幽は清市の娘・イヲリの存在にも言及する。

清市はイヲリを自ら遠ざけた…そばにいれば、危険に巻き込まれるとわかっていたからだと話す。

幽はなおも清市に語りかける…剣聖殺しには駒が必要だ、未来のために罪を清算する機会を与えると。

心の中で清市は決断を迫られていた。

妖刀をこのまま奴らに好きにさせれば、ろくなことにならないのはわかっていた。

しかし、今ここで奴らを斬ったとしても、すべてが終わるわけではない。

妖刀の問題は根本から断ち切らねばならない。

ならば、剣聖を最初に処刑すべきだった…どうせ生きていたところで、自分はそばにいる人間を幸せにはできないのだから。

父と娘が選んだ、それぞれの別れ
清市と離れ、叔母の元で暮らすようになって三年が経った頃、六平国重の訃報とともに、イヲリの生活は神奈備の管理下に置かれた。

父・座村清市の娘だから危険だという理由で…。

半年後、「お父さんの使い」と名乗る巻墨のリーダー郎が現れ、イヲリの記録と記憶の改ざんを施すと告げる。

イヲリはもう、座村清市の娘ではなくなる別の人間として平凡に生きるのだと。

これまでの辛さをねぎらうように優しく語る郎にイヲリは心の中で思う。

中傷も暴力も、不自由さも、すべては清市の娘だからこそだった…だがその一方で、お母さんの笑顔を最後に見ることができたのも、清市と共にいたからだった。

残された一枚のメモ…「辛い思いばかりさせて悪かったな…父」と綴られた文字に、イヲリの涙が零れる。

それは清市の不器用な愛だった。

封印の解放、覚醒する剣術
場面は現在の京都の殺戮ホテルの屋上へと戻ってくる。

封印を破り、完全に覚醒したイヲリが姿を現す。

郎は驚愕する…まさか封印を壊したのか、と。

イヲリの剣術にチヒロは息を呑む。

イヲリの動きを参考し「居合白禊流」を完成させたチヒロは、昼彦に痛恨の一撃を与えた。

斗斗は空間移動の妖術でひとまず昼彦を救出する。

刀ごしだったから…浅い…動けると安堵し、治療はいいから…斗斗に妖刀を渡してくれと頼む昼彦に対し、「酌揺」を昼彦に託すか否かで斗斗に葛藤が走る。

一方、イヲリはクラスメイトの井倉に礼を言い笑顔を見せると、井倉の内心は嬉しそうだった。

大勢の敵がイヲリに襲い掛かかろうとしたその時、チヒロが助太刀に入り、二人は共闘を始める。

す…っげぇ…と感嘆する井倉。

チヒロはイヲリに問いかける…剣術は清市から学んだのか、と。

イヲリは答える…真剣は初めてだったが、稽古は続けてきた、と。

目を瞑ればなんとかなる……血を見ることもないし、大丈夫だと…。

彼女の心には、父と離れてなお積み上げてきた努力があった。

強くなれば、いつかまた一緒にいられるかもしれない…そんな願いを抱いて。

父の目と、娘の声
空を見上げたイヲリは、その景色が妖刀「飛宗」の監視能力・梟によって創られたものだと気づく。

そこには父の存在があった。

チヒロは言う…封印が解けた今、座村清市もイヲリのことを思い出しているはずだ…けれども今の座村にはやるべきことがある…契約者殺しに向かっているのだ、と。

イヲリは全てを思い出した…どれだけ足掻いても、想いは届かないと感じる。

郎はチヒロに警告する。
チヒロが妖刀「淵天」を抜けば、座村清市がお前を斬りに来る…温情が許されたのは一度だけ…次は確実に奪いに来る…と。

斗斗も昼彦に警告する。
満身創痍では、妖刀を抜いたところで座村に敵うはずがない…と。

しかし、昼彦は諦めない…どの道、チヒロは淵天を抜くのだろうし…そして、自分もこのまま終われない覚悟があるからだ。

チヒロはイヲリに叫ぶ。君の想いは無意味なんかじゃない。

以前、郎が放った言葉「剣術を極めることで、妖刀使いとしても一段階上に行ける」を思い出すチヒロ。

居合白禊流を会得した今なら、イヲリの想いを座村清市に届けられると確信するチヒロ。

どうしたいかは、イヲリ次第だと問うチヒロ。

イヲリは叫ぶ!お父さんに会いたい!と。

イヲリの心の叫びを聞いたチヒロと昼彦は、清市を呼び寄せるために、それぞれ同時に妖刀「淵天」と「酌揺」を抜く。

座村清市が呟く──「飛宗」と……。

75話「幻想」あらすじ

座村清市への挑発
京都殺戮ホテルの屋上。

重たい沈黙を切り裂くように、二本の妖刀が同時に抜かれた。

チヒロの手には「淵天」、そして昼彦の手には「酌揺」。

それぞれの妖刀が放つ玄力が、空間の空気を緊張させる。

彼らの狙いは、座村清市をこの場に呼び出すこと。

この強い気配を感じ取った座村清市が、すぐさま姿を現し屋上に降り立った瞬間、空気が一変する。

座村の心中には一つの確信があった…妖刀を開放すれば、どこにいようと察知できる…何もできぬまま終わるのだと…彼にとってこれは、既に決まった結末だった。

一方、背後にいた斗斗は震えあがり昼彦の袖をつかみながら逃げようと提案する。

だが昼彦は静かにうなずくだけで、逃げるつもりがないことを示す。

こんな状況だからこそ――と、昼彦の中で何かが燃えていた。

清市は冷酷な眼差しで二人を見据えていた…彼の心には、妖刀契約者を殺した後はお前ら毘灼とも戦うだけだ、という冷徹な決意が宿っていた。

座村は、この場にいるはずのない娘であるイヲリの存在が気にかかっていた。

座村の心には、計画外の要素が入り込んでいたのだ…想定していた冷静な判断に、一滴の動揺が混じる。

それを見透かしたように、昼彦は動いた…「宴(えん)」…の声とともに玄力を解き放つ……。

その瞬間、何かが起きた…

昼彦が放つ“宴”の罠
斗斗の首が刎ねられた…あまりにも一瞬だった。

血の匂いも、悲鳴もなかった…

ただ、頭部が音もなく胴体から離れ、石畳に転がる…

その異常な静けさが、かえって現実味を持たせていた…

座村清市の妖刀「飛宗」の能力”鴉”は、舞う羽根を通じて周囲の状況を知覚し、その羽根と自らの位置を入れ替える能力だった。

チヒロは、「淵天」の本領の能力”涅 千(くろ ちぎり)”を発動させると、無数の黒い出目金が、まるで生きているかのように空中に飛び出し周囲を探索し始める。

娘のイヲリがこの場にいることが理解できず座村は困惑する…

座村は郎にイヲリの封印を解いたのかと問いただすが、郎は首を横に振りイヲリが自力で封印を解いたのだと答えた。

座村は郎にイヲリに再び封印をかけるよう命じる。

しかしイヲリは、久しぶりに会った娘にかける言葉はそれだけなのかと悲痛な表情で訴える。

ずっと父の事を…と言いかけたその時、異変が起こった。

首を刎ねられたはずの斗斗が、苦しげな呻き声を上げながら動き出す。

座村の妖刀が溶け始め、さらに空間も歪み始める。

建物が歪み出した、と井倉は驚きを隠せない。

イヲリ、チヒロ、郎も、何が起こっているのか理解できず混乱する。

だが郎は、それは外部ではなく内部…つまり自分たちの認識そのものが狂っていると気づく。

座村もまた何が起こっているのか把握できず驚きを露わにする。

チヒロは状況を理解する…先手を打ったのは昼彦であり、座村が斬ったのは斗斗の幻だった。

既に昼彦の妖刀「酌揺」の能力”宴”は発動していたのだ。

先ほど使った昼彦の妖刀「酌揺」の能力の一つである”宴”は、対象に酔いによる幻覚を引き起こし、今見えているものが現実なのか…幻なのか…それすら判断できなくなる能力だった。

郎は、昼彦の姿を探すが、すでにその場にはいなかった。

座村は、舌打ちをしながら斬った感触まで錯覚させられたのかと呟く。

チヒロは、清市がわずかに遅れを取ったことに気づき、やはり娘のイヲリがいることで動揺しているのではないかと推測する。

郎は、敵側にいる者たちは、この幻覚の影響を受けていない…つまり、演出した幻覚を制御し、利用しているのだと冷静に分析する。

父と娘の再会と脅威
チヒロは、座村に迷っている暇はない娘のイヲリを守れと檄を飛ばす。

敵に囲まれるイヲリ。

座村は迷いを振り切り、イヲリのもとへ駆けつけるー父娘の再会ーしかし、それは戦場という過酷な状況下での再会だった。

郎が問う……チヒロはどうするのか。

チヒロは静かに決意するー酌揺の能力を制御している術者、すなわち昼彦を叩くと。

昼彦は息を切らし血を流しながら、それでもまだ笑みを浮かべていた。

横にいた斗斗は、その姿に呆れたように言う…無理しなくても酌揺の能力があれば撒けるのに、と。

昼彦は肩で息をしながら、それでも退くつもりはなかった…ここを逃せば次はない、どうしてもイヲリを捕まえなければならない…そう言いながらも、声にはどこか楽しさが混じっていた。

斗斗はそれを見抜いていた…本気で打算的なことを考えているような人じゃない、と。

彼はただ、まだ終わりたくないだけだ…ただもう一度やりたい…それだけの話だった。

昼彦は笑った。読まれていたことに…長い付き合いの斗斗には隠せない。

昼彦は前を向き撤退は考えず、もう一度やると覚悟を決める!

そして、相手は必ず来る……チヒロだ!

チヒロの反撃
チヒロは、心の中で状況を整理していた。

初手で放った「淵天」の能力”涅 千(くろ ちぎり)”の黒い出目金たちは探索用だった。

「酌揺」の能力”宴”は、初心者であれば効果範囲も限られているはずだと推測し、昼彦が潜んでいるのは京都殺戮ホテル内だと確信していた。

さらにチヒロは事前に酌揺の能力について情報を得ており、三半規管を妖刀「淵天」の能力”錦”で強化することで、幻覚の影響を受けないように対策していたのだ。

一方、昼彦は笑いながら斗斗に言う。イヲリのこともちゃんと狙い、今度は勝つ、と。

その瞬間、チヒロが昼彦の前に姿を現す。二人の妖刀、「淵天」と「酌揺」が激突し、火花を散らす。

昼彦は、チヒロに今度こそ確実に殺せと挑発する。

チヒロは、前回は「酌揺」の所在が分からなかったため仕留められなかったが、今回は確実に殺してやると冷酷に言い放つ。

毘灼による「真打」強奪
場面は変わり、東京の都心。そこには毘灼の幽と松の男の姿があった。

幽は、座村清市は現状、毘灼にとって最も強力な武器だと語る。

彼を上手く操り、十分な利益を得た後に壊さなければならない。

それが座村清市の辿るべき末路だと断言する。

そして、その運命を決定づける鍵の一つが娘・イヲリの存在だと説明し、京都殺戮ホテルの戦いの結果次第では、次の手を打つと告げる。

さらに、この直下深くに妖刀「真打」が神奈備によって守られていると明かす。

松の男は、神奈備本部か…こりゃあ骨が折れる…やれやれ大変そうだな、と呟く。

幽は静かに言う。――そろそろ、始めようか。

晴れた空の下、次の戦いの幕が上がろうとしていた。

76話 「宴」あらすじ

妖刀の本領
《妖刀は、理論の範疇を超えた本領を秘めており、その力は持ち主の理念によって無限に変化し、進化し得る》

京都殺戮ホテル内。

昼彦は、チヒロが三半規管を強化する妖刀「淵天」の能力”錦”(にしき)を使って、自身の妖刀「酌揺」の能力”宴”(えん)への対策を講じていることを見抜いていた。

そして、チヒロの本命は座村清市であり、自分を殺すのは後回しだとも推測する。

昼彦の決断
昼彦は決断を下す。

先に座村清市を殺し、チヒロを本気にさせようと考えたのだ。

彼は斗斗に幽の意向を尋ねる。

斗斗は、幽(ゆら)は昼彦次第だと言っており、殺せるものなら殺せ、ただし妖刀「飛宗」は必ず回収するように、と伝えた。

昼彦は了解し、斗斗に隠れているように指示を出す。

そして、妖刀「酌揺」の能力”遊”(ゆう)を発動させた。

「酌揺」の能力 “宴”と”遊”の恐怖
「真打・勾罪」を除く妖刀の基本能力は三つ。

酌揺の能力の一つ、”宴”は幻覚作用を引き起こす。二つ目は、”遊”は周囲のモノを自在に操ることができる。

昼彦の”遊”によって、死んだはずの敵の死体がゾンビのように蘇り、チヒロ達に襲いかかる。首を刎ね落とされようとも、執拗にチヒロ達を追いかけていく。

チヒロは、昼彦が死体すらモノとして扱う乾いた理念に、嫌悪感を抱きながらも冷静さを保っていた。

昼彦は、チヒロに一度…いや二度も負けたことを認めながらも、相手を見くびるなと内心で呟く。

対決の駆け引き
チヒロは、昼彦が高出力の幻覚”宴”でさらに攻撃を仕掛けてくることを察知する。

”錦”で防御しているにもかかわらず平衡感覚が揺らぎ始める。

妖刀を使いこなし、容赦なく攻撃を仕掛けてくる昼彦の戦い方に短期決戦で勝負を決めるつもりだと分析する。

昼彦は、二度も負けた屈辱を胸に秘め、それでも本気で戦うというのなら誠心誠意を示すまでだと決意を固める。

座村清市を殺すこと…それが彼の示す誠心誠意だった。

”宴”によって幻覚に深く陥った者は、防御すらままならないだろうと考えたのだ。

屋上の攻防戦
場面は京都殺戮ホテルの屋上へ。

巻墨の杢(もく)は郎(ろう)に、久々李の行方を尋ねる。

郎は、座村清市が現れた途端に久々李は退却したと報告し、今はここから脱出することが先決だと促す。

屋上では、昼彦が操る死体のゾンビが、エレベーターから溢れ出し襲い掛かってきていた。

剣聖を殺すという強烈な使命感に突き動かされてきた座村清市だったが、突如として現れた娘・イヲリを守るという強い衝動によってふたたび使命感が補完される。

娘を守れ──

それは座村にとって、抗うことのできない本能的な行動だった。

心の戦い
昼彦は、座村清市の戦闘力は随一だが内面は脆く、自分の”宴”との相性が抜群だと分析していた。

それは幽から、座村清市の心は繊細で精神的に追い込めば意のままに操ることができると教えられていたからだ。

座村は、冷静さを保とうと努め、これは幻覚だと自分に言い聞かせる。

しかし、昼彦は、隙を見逃さなかった。

とらえた!

郎は、座村に危機が迫っていることに気づき、名前を叫ぶ。

座村は、イヲリを体を張って守ろうとする。

しかし、その結果、座村は昼彦の操るゾンビによって、一度に十数カ所以上も刺されてしまう。

くしくも座村を幻覚から目覚めさせたのは、致命傷による激痛だった。

逆転の”雀”
昼彦は、高笑いしながらチンタラしていたからだと嘲笑う。

そして、自分が最強だと宣言し、チヒロに来いと挑発する。

チヒロは、昼彦がここまで座村清市を圧倒するとは予想しておらず、驚愕する。

なぜそこまで、あの剣豪・座村清市を侮れるのか、と。

久々李は、状況の急変に困惑していた……。

昼彦が斬られたかと思えば、チヒロ達が妖刀を抜いて座村清市が現れ、昼彦達が斬られたかと思えば、昼彦達が消えた…何がどうなっているのか理解できずにいた。

座村は、深い傷を負いながらも娘を守り抜いたことに安堵する。

そして、妖刀「飛宗」の三つ目の能力”雀”を発動させる。

傷つくのは俺だけでいい…と呟くと”雀”(すざく)を発動させる!!

座村の体を炎が包み込み傷口から炎が灯る。

座村は、まるで別人のように昼彦を挑発する。

活気がいいなぁ糞餓鬼!こっからお前…何もできねぇぞ、と。

妖刀「飛宗」第三の能力”雀”がもたらすものとは一体何か。妖刀バトルの行く末は…!?

77話 「蚊帳の外」あらすじ

不死鳥の伝説
画家・吉田貫龍の自宅を訪れた男は、壁に飾られた不死鳥の絵画に目を奪われていた。

死期が来ると炎に包まれ、灰の中から蘇るという伝説の鳥。

男は、様々な解釈があるその能力や呼称について語り始める。

吉田は、静かに男の言葉を遮った。

それは空想などではない、と。

この絵は、斉廷戦争で実際に自分が目撃した光景を描いたものだと断言する。

そして、確かに耳にした、と呟く…その名は、“雀(すざく)”、と。

再生の力
場面は京都殺戮ホテルへ戻る。

炎を纏った座村清市は、昼彦に対し、こっからお前…何もできねぇぞ、と宣告する。

昼彦は、座村の再生能力を見て不死鳥かと呟く。

チヒロは、座村の能力”雀”が不死鳥の力であることを理解する。

しかし、座村の目は、まだ治っていないことに気づく。

まとめて斬る!座村は、チヒロと昼彦の間に入り込み斬りかかる。

昼彦は、座村の”雀”が攻撃用の炎としても機能することに驚き、再生能力によって状態異常も緩和できるのではないかと推測する。

チヒロも錦の出力を上げて対応してくるだろうから、”宴”は使えないと判断し、三つ目の能力を使うべきか考える。

しかし、他の二人に遅れを取っている現状では、今は質の高い一手に集中するべきだと考え直し、妖刀「酌揺」の能力”遊”を発動させる。

崩壊するホテル
周囲の物体を支配下に置き、自在に操る”遊”。

物体を使いこなすには、その構造を理解し何度も触れ、手に馴染ませる必要がある。

物体に対する敬意が、扱う精度を向上させるのだ。

しかし、昼彦にとって殺しはただの殺しでしかなく、そこに意味も重みも感じていない。

生命への敬意は皆無で、物体に対してはなおさら、万物への軽視ともいえる歪んだ価値観を持っていた。

それは、座村清市とは相容れない考え方だった。

だが、その悪意こそが、昼彦の妖刀の本領を発揮させる糸口となる。

持ち主によって幾らでも変貌し得る妖刀の本領。

昼彦の悪意は、妖刀「酌揺」の秘めた力を呼び覚まそうとしていた。

チヒロは、昼彦の能力の規模に驚きを隠せない。

まさかホテル全体を…と呟く。

昼彦の妖刀「酌揺」の”遊”によって、巨大な花魁が出現し、京都殺戮ホテル全体を抱きかかえるようにして崩壊させていく。

座村は、これが幻覚ではなく、物理的な破壊だと理解する。

昼彦は、高笑いしながら、何もできねぇだ?と清市を嘲笑い、ぶっこわしちまったよ、と勝ち誇る。

チヒロは、瓦礫と死体で四方から圧死させるつもりかと考え、この規模では斬ってもキリがないと焦燥感を募らせる。

昼彦はすでに深い傷を負っているはずなのに、どこにそんな活力が残っているのかと疑問に思う。

昼彦は、万物への軽視、殺しに意味はないという歪んだ価値観をさらに強めていた。

昼彦の本心
昼彦は、チヒロだけを特別視していた。

チヒロは、昼彦にとって殺しに意味を与えてくれる存在だったのだ。

そんなチヒロと妖刀を持ち合い、命を懸けて戦うことができる。

そのためなら、彼はどこまでも頑張ろうと思えるのだ。

邪魔者は消えろ!昼彦は、座村にも攻撃を仕掛ける。

不死鳥とはいえ、何らかの制限があるはずだと考え物量で攻めて弱点を暴こうとする。そして、逃げるのかと挑発する。

座村は、ホテルの外へ飛び出し、玄力反応で翼を生み出し空へと舞い上がる。

昼彦は、座村清市が蚊帳の外に出たと高笑いし、チヒロに、さあ、戦えるぞ、と告げる。

そして、打開策を見つけ出さなければ本領を発揮しろと挑発する。

雀の真髄
座村は、再び昼彦に向かって、ものすごい勢いで降下していく。

昼彦は、全てを斬り分けて自分だけに攻撃を集中させているのか、他は全て燃えて構わないのか、と清市の行動に驚愕する。

妖刀「飛宗」の能力”雀”は、自らを焼き、再生する不死鳥の力。

しかし座村は、かつて戦場でその能力をさらに進化させていた。

その恩恵は、自らだけでなく、他のものにも及ぶのだ。

吉田貫龍は、あの炎は万物への慈悲だと呟く。

清市の”雀”の炎は、昼彦の妖刀「酌揺」がもたらした全ての状態異常を浄化していく。

昼彦が初めて抱いた他者への誠心誠意、全てを懸けた攻撃は一瞬にして無に帰した。

そんなぁ…と呟く昼彦。

座村は、今度は幻じゃあねぇな、と静かに告げる。

淵天を構えるチヒロ!決戦の時は来た!!

78話 「交代」あらすじ

昼彦、敗北
座村清市に敗れた昼彦は、体が…動かない…

座村は止めを刺そうとするが、チヒロは座村の異様な強さに気づいていた。

昼彦のような強力な技を使うと、玄力と体力が大きく消耗するのは当然だ。

しかし、座村は数日間、日本全土に梟を展開し続けていたにもかかわらず息一つ乱していない。

雀による再生は、生死に干渉することはできず、消耗も大きいはず。

無闇に傷を負えば、玄力が尽きて倒れてしまうはずなのだ。

チヒロは、座村が18年前よりも確実に成長していることを感じ、その力の源泉を探ろうとする。

久々李の脱出
座村が昼彦に止めを刺そうとした瞬間、久々李が妖術”破暮”(はぐれ)を発動させる。

戦闘で体内に生じた熱をエネルギーとして溜め込み、任意のタイミングで放出するこの妖術は、溜め込んだ時間によって威力が上がる。

七か月間、剣術のみで戦ってきた久々李は、そのエネルギーを全て解放させ、爆破を起こして昼彦を救出し脱出する。

座村は、彼らの撤退をただ見送るしかなかった。

脱出後の毘灼
久々李は、斗斗に昼彦の無事を確認するが、昼彦の切り落とされた腕は回収できなかったことがわかる。

「酌揺」も座村の娘「イヲリ」も捕らえることができず、大敗北だと斗斗は言う。

しかし、あの化け物のような清市から生き延びられただけでも幸運だった。

久々李は、このままでは座村清市との協定履行後に使える切り札がないと焦燥感を募らせる。

斗斗は、雪が降ってきたことに懸念する。座村の妖刀「飛宗」の”梟”(ふくろう)が長らく空を覆っていた影響で、天候さえも変化させている可能性があったからだ。

久々李は、清市の出鱈目な力に戦意を喪失していた。

斗斗は、幽が東京で何か策を講じているはずだと久々李を励ます。

二人は、もはや座村清市を真っ向から相手にするのは不可能だと判断し、東京での幽の行動に望みを託すしかなかった。

昼彦は、意識朦朧とする中でチヒロの目に憎しみすら感じないことに気づき、殺…して…と呟く。

父と子、それぞれの決意
チヒロと座村清市が対峙する。

座村は、チヒロが再び妖刀を握った理由を問う。

チヒロは、妖刀「勾罪」の”蠱”(こどく)、そして剣聖の罪について全て聞いたと答える。

座村は、それは剣聖が起こしたことだと反論する。

武器を生み出した責任はチヒロの父・六平国重にあるかもしれないが、六平国重は国のために尽力した英雄だと主張する。

チヒロは、柴登吾からそのことも何度も聞かされていると答える。

座村は、チヒロがまだ真実を受け入れられていないことを悟る。

座村は、”蠱”について聞いたのなら話は早いと言い、剣聖を生かしておくわけにはいかないと言う。

チヒロは、剣聖を殺すためなら他の契約者や自分自身の命を犠牲にすることも厭わないのかと座村に問う。

座村は、”蠱”を完全に断つためには必要な犠牲だと答える。

イヲリの未来のためにも、邪魔をするのならもう一度チヒロを斬ると言い放つ。

チヒロは、イヲリの未来に必要なのは座村自身だと反論する。

そして、自分が再び妖刀を握ったのは、座村を止めるためだと宣言する。

東京、神奈備本部へ
場面は東京に移る。幽は、さて、戦おうか、と呟き、神奈備本部への攻撃を開始する。

神奈備本部では、座村の妖刀「飛宗」の”梟”が晴れたという報告が入る。

巻墨からの報告によると、京都で座村清市と接触し、毘灼の構成員三名とも接触、妖刀「酌揺」も確認されたという。

敵襲の報せが響き渡る。神奈備上層部は、毘灼の襲撃だと判断する。

まさか彼らが本部まで来るとは……。

神奈備本部には、現在、妖刀「真打・勾罪」と剣聖が収容されている。

非戦闘員を含め500人強の職員を抱える東京の地下施設は、強固な結界によって守られていた。

毘灼の構成員である松の男は、結界の強固さに舌を巻く。

神奈備上層部は、敵を第一層まで招き入れるよう指示を出す。

地上を戦場にするわけにはいかない、と。妖術の脅威から市民の安全を守ることが彼らの使命だった。

防護結界が引き下げられ、第一層への侵入者7名が感知される。

神奈備上層部は、毘灼が全員揃っているのではないかと推測する。

六平国重から得た情報によれば、毘灼の構成員は10名。京都で3名が確保されているため、残りは7名。

迎撃部隊を向かわせるよう指示が出される。

上層部からも…と言いかけたところで、薊が自分が戦うと名乗りを上げる。

神奈備上層部は、毘灼がまず座村清市を使って他の契約者を狩るものだと考えていたため、柴登吾と緋雪をそれぞれの警備に配置していた。

まさか妖刀なしで本部を落とそうとくるとは。

座村清市が足止めされたことで、毘灼の計画が狂ったのか?それとも、梟が晴れるのを見計らっていたのか?どちらにせよ、本部が戦場になるとは、と驚きを隠せない。

非戦闘員は至急第三層より下へ避難するよう指示が出される。

神奈備上層部は、ハクリに緊急事態であることを伝え、動けるかと尋ねる。

ハクリは、押忍!と力強く答える。

京都ではチヒロが、東京ではハクリが、それぞれの戦場で命運を懸けた戦いを始める。二つの戦場が、同時に動き出した。

79話「曲者」あらすじ

ハクリ、再び戦場へ
神奈備本部で、ハクリは区堂という男に起こされる。

息を切らし、自分の役目を尋ねるハクリに、区堂(くどう)は落ち着くように促し、状況を説明し始める。

敵襲であり、十中八九毘灼だろうということ、座村清市は六平チヒロが足止めしていること、そして毘灼の狙いは妖刀「真打・勾罪」とその契約者「剣聖」であることを告げる。

ハクリの役目は、真打の隔離だった。真打はすでに再封印されており、あとは”ハクリの妖術”蔵”(くら)の亜空間に隔離するだけだと説明される。

ハクリは、妖術“蔵”について尋ねる。

区堂は、ハクリが妖術の酷使により”蔵”を失いかけていたが、もう一つの妖術“威葬”(いそう)を司る神経を一部移植することで、なんとか持ちこたえさせたと説明する。

ハクリの妖術はまだ生きているが、”威葬”と”蔵”、両方の機能が少しずつ損なわれていることを告げ、簡単に言えば試運転が必要だと説明する。

そして次に無茶をすれば、完全に妖術を失う危険性があると警告する。

ハクリは、感謝の言葉を述べ、まだ役に立てることを喜ぶ。

そして、妖刀「真打」の場所へ案内するように頼む。

区堂は、焦るなとハクリを制止する。

ハクリもまた、敵が来ているのではないかと心配するが、区堂はここは神奈備本部だと自信を見せる。

神奈備本部に、毘灼の侵入
神奈備本部第一層。

毘灼の構成員である死柳兄弟は、あっさりと侵入できたことに驚きを隠せない。

待ち伏せも罠もない…こんな警備で大丈夫なのかと疑問を抱く。

神奈備職員の焦燥
神奈備職員は、第一層西口オフィスで侵入者を監視していた。

彼は、神奈備発足時から在籍するベテラン職員であり、十分な戦闘能力を有していた。

しかし社内放送から敵は七人で、そのうち三人は手練れだと知らされる。

さらに、号”鼠”が発令されたことで、敵が自分たちでは歯が立たない相手だと悟り絶望する。

職員の任務は、無駄な犠牲を出さずに敵を中央部へ誘導することだった。

死柳兄弟、現る
毘灼の三人が現れる。

その中に、例の紋章を持つ人物がいた。

しかし、残りの二人は…死柳兄弟だった。

一般家系の出身でありながら、かつて将校を含む十一人の神奈備職員を惨殺した、恐るべき二人組。

職員は、その二人を見た瞬間、戦慄する。

死柳兄弟は、報酬はいらない、ただ暴れさせてくれれば良いと嘯く。

職員は、毘灼の中に非戦闘員がいることに驚きながらも、彼らがその埋め合わせとして十分な戦力であることを理解する。

今は格子に仕組まれた結界によって気配を絶たれているため、音や殺気を立てなければ存在はバレず、戦闘を避けられると考えていた。

しかし、職員には、死柳兄弟に対する強い憎しみがあった。

惨殺された十一人の職員の中に、彼の甥が含まれていたのだ。

彼は、国を守るという使命感と私怨との間で葛藤する。

そして、私情で部下を危険に晒すわけにはいかないと指令に従うことを決意する。

死柳兄弟は、結界越しに職員の存在を感知する。

その正確な人数まで見抜く能力に職員は驚愕する。

もはや戦うしかないと覚悟を決めた職員だったが、死柳兄弟は虫ケラを相手にする時間はないと言い捨て先へ進んでいく。

職員は、仇に命を見逃されたことに安堵しながらも悔しさを噛み締める。

曲者処刑場(くせものしょけいじょう)
毘灼の三人は、第一層中央部へと進む。

そこには、処刑人“薊奏士郎(あざみ そうしろう)”が待ち構えていた。対妖術戦略陸軍時代、若干18歳にして大佐に昇進した男。

死柳兄弟は、薊の威嚇を大袈裟だと嘲笑う。

そして、死柳兄は妖術”黄鎖”(こうさ)を発動し、薊の動きを封じる。

薊は、その速さに驚きながらも冷静さを失わない。

彼は、チヒロから当時の状況を詳しく聞いていた。

そして、毘灼の三人が精鋭であることを理解していた。

薊は、静かに怒りを燃やしていた。

奴は、おそらく毘灼の中でも六平襲撃の実行犯だろう…柴が異変を感知してから到着するまで10秒もかからなかった…そのわずかな時間で全てをやってのけたのだ。

薊は、ついに仇と対峙できたことに静かな闘志を燃やす。

処刑場に死柳弟が兄を呼ぶ声が響きわたる。

薊は、全身の力を込めて、鎖を粉砕する。彼の戦闘様式は、小細工無用の圧倒的殴殺力。

一瞬で死柳兄弟は撲殺された……。

曲者処刑場。その規則はただ一つ。曲者は此処で死ね!

80話「密室」あらすじ

神奈備本部の書庫

ハクリは、神奈備本部第二層にある妖術に関する書物が山積みになった書庫に圧倒されていた。

区堂は、生来の妖術と違い、移動術や結界術などは学問に近いと説明する。

この書庫には、その公式やノウハウが詰まっているのだ。

漣家にも書庫はあっただろうが、ここまでの規模ではなかっただろう、と区堂は言う。

神奈備で役に立つには勉強が必須だと語る区堂。

巻墨は、その道の職人だが、この書庫の内容を全て理解し応用できれば、彼らに並ぶことができるとハクリを励ます。

ハクリは、巻墨の意外な実力に驚きながら、地響きが気になり始める。

区堂は、おそらく薊の殴る音だろうと答える。

ハクリは、その音がここまで届くのかと心配するが、区堂は結界があるため心配無用だと説明する。

巻墨とは少し違った分野だが、同水準の職人が七人、交代で結界の強度を維持しているため、破ることは不可能だと断言する!音は通してしまうが…と付け加える。

区堂は、壱鬼も参戦しているのではないかと呟く。

ハクリは、壱鬼が誰なのか尋ねる。区堂は、会議に同席していた小さなお爺さんだと答える。ハクリは、あの人も戦うのかと驚きを隠せない。

区堂は、上層部の中では薊が頭一つ抜けているが、他のメンバーもそれに近い実力者だと説明する。

自身は戦闘向きではないが、と謙遜する。

上層部は皆、年寄りだが、若手にもそれぞれ実力者がいると語る。

ハクリは、区堂の説明に耳を傾ける。

区堂は、施設内には、上層部の直属の精鋭部隊の他に、基礎教育課程を修了した三百人強の戦闘員がいると説明する。帯刀している者は、基本的に戦闘員なのだ。

ハクリは、教育課程について尋ねる。

区堂は、玄力を伴う武術の修練に加え、基本的な妖術、そして書庫の3分の1程度の知識は習得しているはずだと答える。

ハクリは大所帯だと呟くと、区堂は、それを鉄壁の結界が囲んでいるため、これ以上の堅守はないと自信を見せる。

薊達は、本部を守るためというより、獲物を狩るために外に出ているだけだと語る。

薊の疑念
一方、曲者処刑場では、薊は腑に落ちないものを感じていた。

慚箱の時とは違って、毘灼は雫天石の武器を使ってこない…計画が狂って焦っているのだろうか?

しかし、毘灼は用意周到な組織だ。こんなところで自滅するような真似をするだろうか?

エレベーターの中の罠
ハクリと区堂は、エレベーターで移動していた。

石枚という男が乗り込んでくる。

区堂は、石枚を教育課程の指導員の一人だとハクリに紹介する。

石枚は、ハクリの若さに驚き、最近は彼のような若い世代を教えていると話す。

若い芽が徐々に増えてきていることを喜ぶ石枚に、区堂は、教育は重要な仕事だと同意する。

深刻な人手不足を解消するためには、若い世代の育成が不可欠なのだ。

石枚は、自分は国のために尽くしてきたと語り、戦争にも出征した経験があると話す。

そして、来月で4歳になる娘・ユキの写真をハクリに見せる。

ハクリは、ユキの可愛らしさに微笑む。

石枚は、娘は自分にとってこの国よりも大切な存在だと語る。

その時、石枚は突然、短刀で自らの首を掻き切る…傷口から松の木が凄まじい勢いで伸び始める…石枚の体には、松の妖術が寄生していたのだ。

区堂は咄嗟に妖術”士透”を発動させ、ハクリの体をエレベーターの床からすり抜けさせる。

私に構うなと叫ぶ区堂…

神奈備の監視員から、結界内で登録されていない玄力が4箇所で爆発したという報告が入る。

ハクリは、何が起こったのか理解できず、混乱する。区堂が自分を庇ってくれたこと、そして石枚の体から松の妖術が現れたことに衝撃を受ける。

ハクリ、窮地
ハクリは、神奈備職員二人に捕まってしまう。

彼らは、ハクリを餌にして敵の主力を誘き出そうとしていた。

職員の一人は、家族のために裏切った…仕方ないと呟く。

ハクリは、石枚と同じ言葉を聞き不穏な気持ちになる。

毘灼の松は、石枚の役目が終わったことを告げ、娘を解放するよう指示する。

そして、配下の兵士たちに檄を飛ばす。

ハクリは、自分が人質に取られたことを理解する。

職員たちは、ハクリの手足を斬ろうとするが、ハクリは、どうやって?と挑発する。

職員たちが刀を抜いた瞬間、ハクリは妖術”蔵”で刀を奪い取る。そして、降参…とはいかないか?と不敵に笑う。

しかし、職員たちは容赦なくハクリの顔面に膝蹴りを入れ、気絶させようとする。さらに、二人掛かりでハクリに蹴りを入れる。

ハクリは、職員たちの攻撃が全く効かないことに驚く。

彼らは、5年間にも及ぶ神奈備式肉体強化計画によって鍛え上げられた精鋭だった。

しかしハクリは、10年間、漣家当主の長男による手加減なしの稽古、愛情という名の虐待によって、さらに強靭な肉体を手に入れていたのだ。

ハクリは、職員たちの暴走に歯止めが効かないことを悟り、このままでは上層部にも被害が及ぶと判断する。

敵の目的は、陽動によって主力を引きつけ、仲間同士で殺し合わせることにあったのだ。

それを止められるのは、自分しかいない。

ハクリは、何かが変わったのを感じる。

職員たちもまた、ハクリへの攻撃が効いていないことに気づき困惑する。

ハクリは、静かに妖術”威葬”を発動させる。

職員たちは、ハクリの力に吹き飛ばされる。

ハクリは、気絶させるだけでは松の妖術は発動しないのかもしれないと考える。

そして、ここから先は誰が敵か分からないという不安を抱きながらも、自分はもう戦えるのだと実感する。

剣聖と真打が毘灼の手に渡れば、この国は終わってしまう。

チヒロも今、どこかで戦っている。

自分も主力なのだと、ハクリは決意を新たにする。

彼は、自分の戦場へと走り出す。混迷を極める神奈備本部で、ハクリを待ち受ける運命とは…!?

81話 「主力」あらすじ

結界核の危機

神奈備結界核に訪れた神奈備上層部の亥猿(いざる)は、突如、神奈備職員の体が弾け飛んだ事態に困惑していた。

監視員に状況を尋ねると、原因は究明中だが、妖刀「真打」などに異常はないと報告を受ける。

亥猿は、毘灼が内部から崩そうとしているのではないかと疑念を抱き、とにかく神奈備が死守すべきは、結界核、真打、剣聖、そして…と続ける。

ハクリの孤独な戦い
一方、ハクリは剣聖を探して神奈備本部内を走り回っていた。

誰が敵か分からない状況の中、彼は自分に言い聞かせるように、俺は主力だと繰り返す。

そして、妖刀「真打」の場所まで辿り着く。

そこに、区堂の直属の部隊長である鹿島(かしま)が現れた。

区堂はハクリを迎えに行ったはずだが、なぜ一緒ではないのかと尋ねる。

ハクリは何も答えず、沈黙を守っていると館内にサイレンが鳴り響いた。

内部からの崩壊
社内放送で、職員の体内から松の木が飛び出し、周囲を襲ったという報告が入る。

鹿島は、まさか…と呟き、ハクリは、区堂が自分を庇って…と、言葉を詰まらせる。

監視員は、遺体を調べた結果、職員の体内に毘灼の妖術によって種子が仕込まれていたことを報告する。

おそらく死をきっかけに発動するタイプの妖術であり、自覚できるものだった為、拒絶することも可能だったはずだが、弱みを握られていたのか……彼らは毘灼の爆弾としての役割を自ら受け入れたのだと説明する。

そして、まだ発動していない爆弾が、本部内に50近くもあることも判明する。

鹿島は、本部職員は約500人なので十人に一人が爆弾を抱えている計算になると愕然とする。

監視員は、これから爆弾の正確な位置を特定するため、漣ハクリ以外の者は何もするなと指示する。

鹿島は、仕事が早いと感心しながら全員に距離を取るように指示する。

怪しい動きをした者は、自分が手足を折ると警告し、ハクリには真打の場所へ行くよう促す。

区堂の偽物
次の瞬間、ハクリの前に区堂(くどう)が現れた。

彼は、ハクリ一人では危険だから自分が同行すると申し出る。

ハクリは、区堂が無事で安心するが、鹿島は二人を制止する。

鹿島は、区堂に放送を聞いたはずだと念を押す。

区堂は、ハクリに誰も同行させないのは危険すぎると反論する。

彼を失えば勝機がなくなると訴えるが、鹿島は、だからこそ例外は許さない、ハクリには誰も近づけるなと繰り返す。

ハクリは、区堂が危険を顧みず自分を助けてくれたことを訴えるが、鹿島は、例外はないと言い、早く行くように促す。

区堂は、自分は大丈夫だと主張するが、鹿島は聞く耳を持たない。

その時、奥から若い女が現れ、神奈備職員を次々と殺害していく。

職員の首から松が伸び、ハクリに襲いかかる。

ハクリは咄嗟に”威葬”で松を破壊する。

ハクリが鹿島の方を見ると、区堂が鹿島の首に短刀を突き付けていた。

そして、区堂の顔が溶け、別の顔が現れる。

偽物の区堂は、時間切れか…と呟き、変身能力で区堂に化けていたことを明かす。

本物の区堂は、ハクリを庇った時に死んだのだと告げる。

鹿島は、ハクリに逃げるように叫び、誰も信じるなと警告する。

混乱の神奈備本部
神奈備結界核では、犠牲者が増え続けているという報告が入る。松の被害だけでなく、別の何かが起こっているようだった。

亥猿は、敵が二種類いることに気づく。

一つは種子を埋め込まれた者たち。

彼らは家族を人質に取られているのだろう。

しかし、50人もの職員の家族の情報は、内部の人間でなければ入手できない。

つまり、もう一種類の敵は、毘灼に情報を流した裏切り者達なのだ。

もし彼らが混乱に乗じて行動を起こしているのであれば、もはや神奈備は終わりだと亥猿は悟る。

監視員は、神奈備は誰が敵か分からない状況で、毘灼は神奈備の戦力や配置を全て把握しているため、防ぎようがないと絶望する。

亥猿は、誰の部隊が勝手な行動をしているのか特定するように叫ぶ。

監視員は、松のせいで回線が乱れているため少し時間がかかると答える。

亥猿は、内心で監視員をクビにすると決意しながらも敵ならすぐに分かる、この奇襲さえ切り抜ければ敵を一掃できる好機だと考える。

漆羽、再登場
ハクリは、区堂の偽物と若い女に追われながら、誰も信じられない、戦うしかない、でも妖術の使用制限もある、と葛藤していた。

その時、ハクリの目の前に、死んだはずの漆羽洋児が現れる。

ハクリは、変身する敵がいることを思い出し漆羽が本物かどうか疑念を抱く。

漆羽は、ハクリに”ムカデ”だと叫ぶ。

ハクリは咄嗟に身を低くする。

漆羽は、「居合白禊流」で追っ手を一瞬で斬り伏せる。

ハクリは、漆羽がなぜここにいるのかと尋ねる。

漆羽は、説明は後だと告げ、自分と来るように言う。

ハクリは、漆羽に従う。

死んだはずの漆羽。彼は一体なぜ…!?

82話 「淵天VS飛宗」あらすじ

チヒロの確信
場面は京都殺戮ホテル。

チヒロは、ずっと心に抱いていた疑念を確信に変えつつあった。そして、落ちていた妖刀「酌揺」を拾い上げ、郎に預ける。

郎は酌揺を手に、昼彦の行方を尋ねる。

座村は、昼彦は退却したと告げ、鞘は2階下に落ちているはずだと付け加える。

チヒロは、座村が18年前よりも強くなっていることを感じていた。

黄泉返りすら意図的なものではないかと疑う。

しかし、座村の行動原理はあくまで妖刀「真打・勾罪」の”蠱”を断つことであり、契約者達に個人的な恨みはないはずだ。

チヒロは、確信を持って清市に問いかける。漆羽さんは生きているのですよね?と。

漆羽の回想、そして決断
場面は過去へ。

漆羽は、真打の本領”蠱”が再び起こる可能性を危惧していた。

剣聖を処刑すれば蠱は止められるが、命滅契約によって他の契約者も死んでしまう。

契約者たちの存在が剣聖の処刑を阻み、封印という妥協策によって蠱の可能性は最小限に抑えられていた。

しかし、”最小限”とはいえ、”蠱”の脅威が消えたわけではなかった。

そんな中、座村は全ての契約者を自分が殺すと宣言する。

漆羽は、座村がついに痺れを切らしたのだと解釈する。

しかし、自分は生かされた命であり、死ぬわけにはいかない、と強く思う。

座村は、漆羽を安心させるように、今死ぬのは英雄としてのお前だけだ、と告げ、互いのエゴだと呟き、あとは斬り合うだけだと続けた。

二人は互いに居合白禊流を放ち、激突する!

勝負は清市の勝利に終わる。

漆羽は、まさか…一人で背負うのか…と呟きながら、息絶える…。

漆羽、復活
漆羽は、ベッドの上で目を覚ます。

医師から、一度は確実に死んでいたこと、そして命滅契約が切れていることを告げられる。

漆羽は、座村の狙いを理解する。

妖刀「飛宗」の能力”雀”の慈悲の炎を仕込み、死後、時間差で発動させることで蘇生させたのだ。

死をきっかけに発動する妖術は珍しくないが、蘇生は18年前にはできなかった芸当だ。

座村は、契約者達を命滅契約から解放するために力を培ってきた。

しかし、この種の術には欠点がある。術者が死ねば妖術は無効になる…つまり、清市自身にはこの術は適用されない。

座村は、死ぬつもりなのだ。

契約者のしがらみも、剣聖も、蠱の可能性も全て一人で断ち切ろうとしているのだ。

漆羽は、清市の真意を理解し、自分が止めなければならないと強く思う。

しかし、命滅契約が解かれた反動で、18年間変形し固定され続けていた神経が元に戻ろうとしており、数日間は体が動かない状態だった。

誰が座村を止めるのか、と漆羽は医師に尋ねる。

医師は、六平チヒロが対座村清市部隊として出動する予定だと答える。

漆羽は、医師に自分のことは報告しないように口止めする。

伏兵がいることは、決して不利にはならない。

場面は神奈備本部に戻る。

区堂の偽物は、死んだはずの漆羽を見て驚く。

漆羽は、自分は座村に敗れたが、せめて仲間の留守は守ると決意を語る。

再び、京都殺戮ホテルへ
場面は京都殺戮ホテルへ。

座村は、チヒロに、なぜ再び妖刀を握ったのかと問う。

チヒロは、全て聞きました、妖刀「勾罪」の”蠱”…剣聖の罪のこと、と答える。

清市は、柴登吾がおしゃべりだったと皮肉を言いながらも、それは剣聖が起こしたことだと主張する。

武器を生み出した責任はあるが、チヒロの父親は国のために尽力した英雄だと繰り返す。

チヒロは、柴登吾からその話も何度も聞いていると冷静に答える。

清市は、チヒロがまだ真実を受け入れきれていないことを悟り、”蠱”について聞いたのなら話は早いと言い放つ。

剣聖を生かしておくわけにはいかない、と。

チヒロは、剣聖を殺すためなら、他の契約者や清市自身の命を犠牲にすることも厭わないのかと問う。

座村は、蠱を完全に断つためには必要な犠牲だと答える。

イヲリの未来のためにも、邪魔をするならもう一度斬るとチヒロを威嚇する。

チヒロは、イヲリの未来に必要なのは清市自身だと反論し、自分が再び妖刀を握ったのは清市を止めるためだと宣言する。

最後の決闘
座村は一度部屋を出て扉を閉め、チヒロと扉越しに改めて対峙する。

彼は、玄力を溜め爆発的な推進力を生み出す白禊流で、チヒロを一撃で戦闘不能にするつもりだった。

”雀”の炎を纏い、座村は構えを取る。

チヒロは、あの時は勝負にすらならなかったことを思い出す。

今、自分が何を言っても座村清市には届かないだろう。

チヒロは、座村が扉越しに戦うのは、太刀筋を読ませないためだと理解する。

自分が動けば音で位置がバレてしまう…チヒロは、受けて立つ覚悟を決める。

清市の居合白禊流が発動する。

チヒロは、玄力の全てをのせ妖刀「淵天」を構える。

二振りの妖刀が激突する。

83話「淵天」あらすじ

重すぎる真実
シーンはチヒロが座村清市に殺されたが生き返った病室で柴登吾と回想シーン。

妖刀「真打」の力である“蠱”、そして20万もの命を奪った剣聖の罪。

柴は、チヒロの父・六平国重が真実を隠していたのは、あまりにも重すぎる事実からチヒロを守りたかったからだと説明する。

妖刀がなければ、逆にこの国の人間が虐殺されていたかもしれない。

それでも、妖刀を作ったことへの罪悪感は、国重を蝕んでいたのだ。

チヒロは首を傾げ、それならばどうして七本目を、と問いかけた・……その問いには、父の決断への疑問と理解したいという願いが込められていた。

激突、そして新たな提案
現在の京都の戦場では、座村清市とチヒロが激しく対峙していた。二人は互いの全てを乗せて「居合白禊流」を同時に放った。

技の余波が収まり、チヒロは息を切らしながら、その威力に驚嘆した。もし受け流さずに、あの場で踏んばっていたら腕は吹き飛んでいただろうと恐怖を感じる。

斉廷戦争から伝わる伝承「黒鳥が群れるのは死の知らせ」その起源は言うまでもなく座村清市だった…座村の存在は死神のように、戦場に影を落としていた。

清市は、チヒロに何を示すつもりなのかと問う。

チヒロは、誰も犠牲にならずに蠱を止める方法があると答える。

真打を破壊すること…それがチヒロの提案だった。

命滅契約は真打を源とするため、真打を破壊すれば契約は解消され、誰も犠牲にならないはずだと説明する。

座村は「破壊」という言葉に苦笑した……できるものならばと前置きし、戦後すぐにあらゆる方法で試みたが、ヒビ一つ入らなかったと語った。

チヒロが刳雲を折ったという噂は聞いているが、剣術も身体強化と同じ玄力の巡らせ方で、持ち主の技量で刀の強度は変わるのだとも説明した。

妖刀を折らせるなどということは、刳雲を握っていたのがよほどの小悪党だったからだろうと座村は推測し、今話しているのは「剣聖」と呼ばれた男が契約する六平国重の真打であり、破壊は不可能だと断言した。

座村自身が剣聖と共に死ぬこと、それが唯一で最良の方法だと繰り返す。

戦術の応酬
座村清市は、妖刀「飛宗」の能力”鴉”を発動させる。

自らと空間に舞う羽根を入れ替えるこの能力で、チヒロに攻撃を仕掛ける。

チヒロは、清市が剣術を習得したことで、刀がより手に馴染み、錦もより自然に使えるようになっていることに気づく。

チヒロは”涅”を発動し、清市の動きを捉えようとする。

”錦”を使ってなお防戦一方だったが、ついに清市の”鴉”を見切る。

チヒロは、座村が黒羽と入れ替わる直前、入れ替わる先の玄力がわずかに爆ぜる感覚を掴んだのだ。

ところが座村はチヒロの行動を読んで次の瞬間、刀だけを入れ替えるという奇策に出て、チヒロを蹴り飛ばし池へと落とす。

淵天の真の力
六平国重は、妖刀を作る際、能力の詳細な設計は行わず、ある程度の狙いだけをつけていた。

殺傷用、援護用…かつての六本の刀は、戦争兵器として敵を打ち負かすために作られたのだ。

チヒロは、再び柴登吾との会話を思い出す。

柴は、チヒロが持つ七本目の妖刀「淵天」だけは違うのだと説明していた。それは、六平国重の刀匠人生における唯一の共同制作だった。

チヒロは、自分はただ相槌を打っただけだと反論するが、柴は、国重が戦後すぐに妖刀を破壊しようとしたが、人智を超えた雫天石を宿した一級品である真打は、あらゆる手段を使っても破壊できなかったのだと語る。

その後、約15年間、国重は蠱と妖刀と向き合い、苦悩し続けていた。それでも、チヒロという光があったからこそ、道を見失わずに済んだのだ。

淵天は、その苦悩と希望の結晶だった。

未来への決意
柴は、チヒロがかつて妖刀「淵天」で妖刀「刳雲」を破壊したことを指摘する。

双城は元々剣士ではないため、過去の契約者に比べれば未熟だったかもしれない。

それでも、彼は十二分に手練れだった。

敵の落ち度ではなく、紛れもなくチヒロの功績なのだ。

そして、一度は堕ちてしまった妖刀を、チヒロは正しく導いたのだと。

過去と向き合い、未来に繋げる。

それこそが、国重が淵天に込めた狙いだったのかもしれない。

あの時、チヒロはその力を引き出したのだと柴は語る。

チヒロは、淵天の本領に気づき、希望に満ちた表情で宣言する。

この淵天を以って…俺が妖刀「真打」を折ると。

84話「傷の者たち」

再開する激闘
京都。チヒロと座村清市の戦いが再び始まる。

座村は、チヒロが妖刀「真打」を折ると宣言したことに驚きを隠せない!

六平国重が戦後打った妖刀はあの「淵天」の一振りのみ……妖刀を破壊するための妖刀「淵天」か……そう考えると確かに六平の考えそうなことだとは思うものの座村は懐疑的だった為、それは夢物語だと一蹴し、「飛宗」にすら刃こぼれ一つつけられないチヒロに、「真打・勾罪」を破壊することなど不可能だと断言する。

それに対してチヒロは、これからだと静かに言い放つ!

座村は、たとえ真打を破壊できる力があったとしても、それは過去の遺物であり、チヒロが背負う必要はないと諭す。

チヒロは、力強く宣言する。俺は六平国重の息子だ!!と。

座村は、静かに頷き、そうか…と呟くと、再び斬り合いが始まる。

二人の間で刃が交差し、火花が散る!

座村は思考を巡らせる……さっきまでよりチヒロの動きが早くなっている⁈

チヒロも座村の変化を感じ取っていた…座村からはこの上ない殺気が放たれており、今度こそ本気で淵天を奪う気だと…

座村は、チヒロの速度が上がったのではなく、何か別の能力を使っているのではないかと推測する。

「飛宗」の鴉と同じように、「淵天」の基本能力か、それとも…と考えていると、チヒロは「淵天」の”猩(あか)”で「飛宗」の”鴉(からす)”を吸収した。

チヒロは、「淵天」との一体感が増していくのを感じていた…。

座村の「飛宗」に傷一つつけられないようでは、確かに真打を折るなど夢物語でしかない。

チヒロは、必ず淵天の力を証明し…そして座村に生きる道を示すと決意を新たにする。

二人の剣が激しくぶつかり合う。

チヒロは手応えを感じ行けると確信するが、清市はしゃらくせえと一蹴する。

チヒロは、また”鴉”で瞬間移動で飛ぶのかと身構えるが、清市は、もういい…ねじ伏せてやると言い放ち、真正面からチヒロに襲いかかる。

二人の剣が激突し、チヒロは吹き飛ばされる。

チヒロは、刀の硬さに驚きながらも、何度でも立ち上がると決意する。

しかし、剣を握ろうとした手のひらは、皮が破れ、血まみれになっていた。

もはやまともに刀も握れないチヒロに、清市は、夢物語だ、終わりだと言い放つ。

巻墨の介入
チヒロは、巻墨の三人と京都へ向かう電車の中での会話を思い出していた。

郎は、「飛宗」を持つ座村清市に死角はないと言い羽根による感知はどのような感覚なのかと尋ねる。

チヒロは、淵天の金魚と同じで、触れれば凹凸まで分かるが、周囲の環境は音や温度、空気の流れなどを感知してイメージで空間を認識しているのではないかと推測する。

郎は、羽根に当たらなければ攻撃できるかもしれないと呟く。

杢は、巻墨の隠密術は、熱・音・匂い・殺気を極限まで消し、空間に溶け込むことだと説明する。

炭は、物理的な空気の流れでわずかに感知できたとしても、視認できない清市にとって、巻墨の存在は朧げなものになるはずだと付け加える。

シーンは現在に戻る。

チヒロと座村の対決に、突如として巻墨の三人が割って入った。

座村は、意識を集中しなければ巻墨の存在は消えてしまうため、この状態でのヒットアンドアウェイは難しいと判断する。

郎は内心で、この妖刀戦に巻墨なら水を差せると確信した。

チヒロは、”猩”で”雀(すざく)”を吸収する。

座村は、チヒロが”雀”を使っていることに驚き、”猩”はコピー能力であり、怪我を治そうとしているのだと理解する。

座村は、雀の回復には使い慣れない神経を使うため、チヒロはすぐには使いこなせないだろうと考える……あの怪我なら、回復には十数秒はかかるはず…巻墨は時間稼ぎをしているのだ、と。

郎は、座村に何を焦っているのかと問いかける…雀を使えば、清市の目も治せるはずなのに、なぜそうしないのか…生きる未来を直視するのが怖いのかと挑発する。

座村は、黙れ、と吐き捨て、自分が生きる未来はもう見えていると呟く。

座村は、チヒロに回復の隙を与えないと決意するも、郎は、清市には本当に大切なものが見えていないようだと皮肉を言う。

しかし、その一瞬の隙が、チヒロには十分な猶予となった。

座村は、チヒロが怪我を治していないことに驚く。

チヒロは、回復ではなく全てを火力に乗せると決意していた…俺たちは傷だらけになったって構わないんだ、と。

チヒロの想いを乗せた一撃が、清市に届く…。

85話「開く」

折れるはずだった飛宗
チヒロの放った一撃が、座村清市の妖刀「飛宗」についにヒビを入れた。

その亀裂を目にしたチヒロは、自分の力が確かに届いたことを確信する……妖刀「真打」を折ることも、きっとできる――そう思えた。

だが、座村は冷静に“雀”を発動し、飛宗の損傷は瞬時に修復される……続けて“鴉”の能力が使われ、周囲に大量の黒い羽根が舞い視界を完全に遮っていった。

羽根によって光が奪われ、視界は一気にゼロになる。
しかしチヒロも、すぐさま“涅”を発動……淵天の力により大量の黒い出目金が現れ空間全体をさらに黒で覆っていく。

羽根と金魚が入り混じる異様な空間……外からは何も見えず、そこにいるのはチヒロと座村のふたりだけ…。

彼らだけが玄力を通して周囲を感じ取り、この異常な空間の中で動くことができる。

さらにチヒロは“猩”によって自身も“鴉”の空間移動が可能になっていた。

いまや、二人は同じ条件のもと空間のどこにでも自由に身を移すことができる状況になっていた。

静かな覚悟と、激しい斬り合い
その中で、ふたりは何度も刃を交え続ける。

空間を飛び回り、瞬時に現れては交差する剣と剣……見えない戦場の中、ふたりの攻防はさらに激しさを増していく!

チヒロは言う。何度でも示す……自分は最後まで向き合うつもりだと。

座村はその言葉に反応し、苛立ちをぶつける……覚悟も力もあることはわかっている…だが、それでも痛みは消えない……淵天を握っている今のお前を見れば、それは明らかだ。

チヒロの両手はすでに血まみれで刀を握るだけでも耐え難い苦痛がある……それでもチヒロは「淵天」を離そうとしない。

座村は、そうまでしてなぜ握るのかと問う……妖刀も、自分も、お前らにとってはもう必要のない過去のものだ……捨ててしまえば楽になれるはずだ……だから、もう離せ!

チヒロの答え
チヒロは迷いなく言葉を返す。

今、自分は全力で生きている…それは、絶対に手放したくない過去があるからだ。
痛みも、苦しみも、失いたくない思い出も、すべてが自分を形づくっている…だからそれを切り捨てることなんてできない。

痛くても、傷ついても、全部を受け止めて、前に進む……何度だって――。

イヲリの決意と、イノリの声
そのとき、戦場に駆け出してくる者がいた……娘のイヲリだった。

小さなころ、イヲリは「お父さんみたいに大切なものを守れる人になりたい」と言っていた……今もその気持ちは変わっていない……彼女は、父とともに戦えると伝えるために迷いなくその足を踏み出していた。

そして、もうひとつの存在が現れる。
亡くなったはずの妻・イノリが、静かに座村の前に姿を現した。

「もう、未来に目を向けて」

その声に、座村は言葉を詰まらせる。
わかっている……すでに向き直っていたつもりだった…けれど、まだどこかでためらっていた……自分が生きる未来に、イヲリの居場所があるのかどうか……それが怖かった。

イノリはやさしく、もう一度伝える。「ちゃんと、イヲリを見てあげて」と。

開かれる目
座村の目に、イヲリの姿がはっきりと映る。

自分を守ろうとまっすぐに走ってきた、その小さな身体。
いつの間にか大きくなっていた娘を見つめながら、座村は静かに言葉をこぼす。

「ありがとうな……俺を守ってくれて。大きくなったな」

そして……
閉ざされていた座村の目が、ゆっくりと開いていく…。

それは、過去に別れを告げ、未来を見ようとする意思の現れだった……。

86話「胎動」

孤独な覚悟と継承される意志
全力の”錦”と”雀”の火力を借りてようやく放たれた斬撃は、チヒロにとって全力を尽くした結果……視界はすでにぼやけている。

そこまでして示せたのは妖刀「飛宗」へのひびのみ……それは決定打には遠く、せいぜい糸口にすぎなかった…妖刀「真打・勾罪」を折れる確証には至らず、チヒロの心は焦りに揺れていた。

そんな中チヒロは、意識の端で座村清市の姿を捉えた…目が開いている…。

座村は、チヒロの手にある刀に視線を落とし、ついに根負けを認めた。

その刀がどれほどチヒロにとって大切なものか……亡き父・国重と共に打ち上げた想いの詰まった妖刀「淵天」。

それを手放すつもりは毛頭ないと理解した座村は、無言のうちにその意思を尊重した。

座村は、妖刀を折る妖刀「淵天」で「真打」を折る決意を持った目の前の若き剣士が未来を切り開こうとしていることを感じていた……かつて自らが携わった妖刀が、今は真打を折る力の一端として新たに生きようとしている。

それがどんなに未完成であっても、座村はそれを見届けようと決意した。

親子の間に横たわる年月
チヒロは剣術の腕を磨けたのは、座村の娘・イヲリの存在があったからだと座村に話す。

しかし再会した座村とイヲリの間には、年月が開けた深い溝があった…。

イヲリは、突然現れた父に戸惑いと怒りを隠せない…。

「当たり前でしょ」と感情を露わにするその姿は、子どもとしての素直な心情の吐露だった。

忘れていたはずの、母の最期に笑顔で過ごしたあの時間……それを思い出せないほど長い年月が経っていたことに、彼女は深い喪失感を抱えていた。

座村は、ただ「悪かった」と繰り返すことしかできなかった。

その言葉がどこまで届いたかはわからない……けれど、確かにその場にいた者たちは、親子が再び向い合い抱きしめる瞬間を目にしていた。

つながる者たちの現在地
イヲリの前に立つ仲間たち……イヲリのクラスメイトの井倉、巻墨の炭、杢、郎のそれぞれが、自分の立場や居場所に迷いを抱えながらも、確かにこの場で役割を果たしてきた。

井倉は場違いだと自嘲するが、炭が真っ直ぐにそれを否定する。

井倉がいなければ、結果は違っていたと…杢は誇らしげに「最優秀戦士」と讃え、冗談交じりに気持ちを伝える。

そして、郎もまた、イヲリが怒りをぶつけてくれたことで、座村へのわだかまりの一部が解けたことを打ち明けた。

それぞれの想いが交差する中、座村の視線は未来を見据えていた。

残された問題……妖刀、毘灼、そして神奈備の内通者…協定で網羅すべきだった存在たちが今、宙に浮いていた。

新たな戦いと決意の共有
そのとき、報せが届く。

神奈備本部が、毘灼による奇襲を受けたという知らせだった。

座村は状況を読み解こうとする…妖刀なしで突撃するなど常軌を逸している…狙いは自分か、あるいは奥の手が存在するのか…疑念がよぎる。

チヒロは、静かに座村に問いかける……この盤面を一掃すれば、ようやく新たな道を話し合えるのではないかと。

座村はそれに同意し、かすかな希望を見出した。

チヒロはさらに言葉を重ねる……自分は一人で背負うつもりはない……「飛宗」は援護のための剣…だから、これから負うであろう傷は、座村の刀で癒してほしいと……妖刀も毘灼も、すべてを一緒に片付けようと提案する。

その「一緒に」という言葉に、かつての座村には言えなかった想いが詰まっていた。

仲間たちも、チヒロに賛同する。

郎は座村が落としたサングラスを差し出し、杢は穏やかに言葉をかけ……座村は、それを静かに受け入れた。

動き始めた最下層の脅威
一方その頃、神奈備本部の最下層の牢獄では18年間、動くことなく封じられていた「剣聖」がついに言葉を発する。

18年間で口を開いたの「勾罪」……今年の楽座市の開催日11月8日15時47分に放ったこの一言のみ……。

剣聖を囲うのは、命を最低限維持する装置がある構造物。

自ら死ぬこともできず、思考を閉ざされたまま過ごした日々……その「無」に等しい時間を過ごす中、ついに彼は口を開いたのだ。

「……そろそろか」

その言葉は、何かが起ころうとしていることを予感させるものに間違いないだろう。

異常を察知した監視役たちが緊張を走らせるが、もはやその流れを止めることはできない。

決戦の地、東京へ
毘灼より奇襲を受けた神奈備本部。

事態はすでに動き出していた。

座村は、「俺が運ぶ。急ぐぞ」と告げると。チヒロもそれに続く……目指すは東京――。

すべての因縁が交差し、敵味方の垣根を越えて「未来を託す」という覚悟が共有されはじめた。妖刀、裏切り、過去の清算、そして新たな敵。数多の思惑と運命が交錯する中、戦いは次なる局面へと向かっていく。

カグラバチのあらすじ所有者暗殺編【京都編】|まとめ

以上、『カグラバチ』所有者暗殺編【京都編】のあらすじをお届けしました。

物語が大きく動くこの章では、登場人物たちの関係性や背景がさらに深く描かれ、作品の世界観が一層広がっていきます。

今後の展開がますます楽しみですね♪

本記事は全話まとめの一部として、所有者暗殺編の京都編を整理しました。

他の章もあわせてご覧いただくことで、『カグラバチ』の流れがより立体的に見えてくるはずです。

ぜひ引き続き、カグラバチの最新話までチェックしてみてください!

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