カグラバチの神奈備本部迎撃編あらすじ(第87話~)

カグラバチの神奈備本部迎撃編あらすじ(第87話~)
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カグラバチの物語はいよいよ激戦の舞台へと突入します。

今回取り上げるのは、神奈備本部迎撃編。仲間たちの想いや因縁が交錯し、シリーズ屈指のスケールで描かれる戦いが展開されていきます。

本記事では、カグラバチの神奈備本部迎撃編のあらすじを、第87話以降の流れに沿ってわかりやすくまとめました。

カグラバチを追いかけてきた読者にとっても、これから読み始める方にとっても、神奈備本部迎撃編のあらすじは必見です。

それでは、カグラバチの神奈備本部迎撃編のあらすじ(第87話~)をどうぞ♪

目次

「カグラバチ」神奈備本部迎撃編|あらすじ

集英社公式サイトより
87話「亡霊」

霧に包まれた敵の輪郭
神奈備本部の資料庫にて、毘灼に関する記録が整理されていた。

そこに記されていたのは、戦後十五年に起きた六平国重の暗殺。

そして、犯行に関与したとされる小規模な組織・毘灼の存在である。

毘灼は十名ほどで構成され、頭領は「幽」と呼ばれる人物…戸籍にも記録されぬ出自、不明瞭な年齢層、家系に属さぬ力……。

毘灼が何を目的とし、なぜ真打と剣聖にこだわるのか……その本質は、依然として深い霧の中にあった。

だが確かなのは、六平国重という偉大な剣士を葬ったその手腕。

資料には薄れゆく戦後の記憶とともに、静かに警鐘が刻まれていた。

動き始めた「亡霊」
神奈備本部・曲者処刑場。

薊奏士郎は、毘灼の人間と死柳兄弟と呼ばれた2人の敵を、圧倒的な力でねじ伏せていた。

しかしその手応えに、妙な違和感を覚える……圧倒しているはずなのに、あまりにも空虚な感触。

薊は、まだ本命が現れていないことを察していた。

第五層では、漆羽と漣が異変を察知する。

毘灼はまたしても駒を用い、本体を姿の見えぬまま温存しているのか……その冷酷な戦術に、かすかな苛立ちが広がっていた。

しかしそれは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。

一方、曲者処刑場の前では、毘灼の男女4人がソファーに腰を下ろしていた。

戦場には似つかわしくないその光景が、むしろ不穏さを増している。

緊張を笑い合うその空間に、彼らの主、幽が現れる。

神無き戦場、神を帯びる者
曲者処刑場前室にいた神奈備の職員と思しき老年の男に幽は静かに声をかけ、手洗いの場所を尋ねた。

殺した相手……六平国重を知る者として、老人は毘灼に興味を抱いていたようだった。

言葉少なに交わされるやりとりの中で、幽は一枚の硬貨を取り出す。

それは運命を試すような静かな賭けだった。

もし勝てば、手洗い場へ案内を……負ければ、自らの命を差し出す……淡々と語る幽の態度に、何か人ならぬものが宿っていた。

投げられた硬貨は、まるで神に選ばれるかのように、表を示す。

老人は静かに手洗い場を案内する。

幽は礼を述べ、静かにその場を後にした。

去り際、老人はふと問いかける……貴様は一体何者なのか…。

その背に返答はなかった。ただ、気配だけが残された。

崩れる静寂、開かれる門
処刑場へと向かう準備の裏では、また一つの選択が動いていた。

神奈備の裏切り者が、結界核の制御に手を伸ばす。ほんの一瞬の乱れ……それが、毘灼の第五層への侵入を許してしまう。

何気ない「違和感」だけを残し、内部はふたたび静けさを取り戻す。だが、遅すぎた。

約束の時間は数秒ズレたが、毘灼の主力メンバーが神奈備第五層に降り立った。

第五層に現れた5人の紋章を見た瞬間にハクリ漆羽幼児は敵の正体が毘灼だと悟る……人数の差は明白…だが、焦りは見せない。

漆羽は妖刀を失った今、十八年ぶりに自身の“本来の力”に頼る覚悟を決めていた。

かつて漆羽の妖術を失う代償として交わした妖刀との命滅契約……それが解かれ、神経の可動が戻りつつある今……再び己の「原点」を武器として戦場に立つ。

その覚悟は、失った年月を超えて新たな希望を告げていた。

88話「皮切り」

神奈備本部の戦端
神奈備本部第六層、結界核の間には不穏な空気が満ちていた。

亥猿は、突入してきた毘灼の動向を冷静に確認する。

五人の毘灼の構成員が第五層の西側へ向かったとの報告を受け、彼は表情一つ変えずに指示を下す。

「どうせ暴れてもいい処刑場に招いてやったのに…」という独白は、状況を掌握しているが故の余裕か、あるいは侮りか。

内通者の特定がまだという情報には耳を貸さず、彼は即座に上層部隊に毘灼の包囲を命じる。

下士官以下には引き続き「何もするな」と徹底させつつ、上層部隊には西から攻め、中央へは決して近づけさせないよう厳命する。

「建物はある程度壊れてもいい。とにかく毘灼は皆殺しだ」。その言葉には、毘灼への容赦ない殲滅の意思が込められていた。

第五層での再会と援軍
場所は移り、神奈備本部第五層。

幽は「生きているはずはないんだがな」と、何らかの事態を訝しんでいた。

その視線の先には、漆羽洋児と漣伯理(ハクリ)の姿がある。

漆羽はハクリに「戦えるか」と問いかけ、ハクリは「ハイ!」と力強く答えるも、本音では「ビミョーです」と正直な胸の内を明かす。

彼女の妖術「威葬」は連続使用によるインターバルが必要で、転送能力は使えるものの、今まで登録した地点はリセットされているという。

漆羽はハクリの簡潔な報告を賞賛しつつ、「敵は前後に七。この子から離れるわけにはいかないな。防戦で蹂躙してやるよ」と内心で決意を固めていた。

その時、天井が綺麗な正方形に切り取られ、天井板と共に一人の人物が舞い降りてくる。

漆羽は驚きとともにその名を呼ぶ。「斬チャン!」。

現れたのは、居合白禊流の開祖である白廻逸夫の孫、白廻斬(しらかい きり)だった。

斬は漆羽が生きていることに驚き、漆羽は過去に白廻逸夫の世話になったことを懐かしむ。失踪中の白廻逸夫が今も斬に連絡を取っていることを知り、漆羽は時代の変化を感じる。

斬は祖父を「剣に関して超男尊女卑のクソジジイ」と評しながらも、どこか愛情めいた感情を覗かせる。

漆羽は斬にハクリを紹介し、斬はハクリを「はくりん」と呼ぶことで瞬く間に打ち解けるのだった。

漆羽の反撃と幽の策略
漆羽は妖術「紅演」を発動させる。

毘灼のメンバーが襲いかかる中、漆羽は驚くべき体術で相手を蹴り飛ばす。

ハクリは漆羽のそのパワーに驚きを隠せない。

毘灼のメンバーの一人も「もろに入ったよ」と動揺を見せる。

別のメンバーが妖術「魔咬」を発動し、巨大な獅子舞の頭のようなものが現れて襲いかかる。

漆羽は斬にハクリを託し、「さて…攻戦だ」と宣戦布告する。

激化する戦場
毘灼のメンバーの一人が差し出した本から刀が現れ、それを握った幽が漆羽に斬りかかる。

漆羽の攻撃は驚異的な速度を誇るが、破壊力はさほどではない…能力の一点を強化する妖術だと幽は分析する。

漆羽は(座村の方を千尋が止めている)と状況を把握しつつ、毘灼のメンバーに問いかける。「契約者殺しの手札が底を尽きたか?」

幽は「おまけに時間もないんで邪魔しないでもらえると助かるよ」と挑発的に返す。

さらに毘灼のメンバーCが「幽、続々ときてるよ」と告げると、漆羽は「分からないはずがねえ。邪魔者は俺以外にも山ほどいるぞ」と不敵に笑う。

幽は「神奈備本部にはいろんな奴がいる。俺たちは東の間の混沌に一役買わせてもらう」と、自らの目的を明かす。

再び毘灼のメンバーBが妖術「魔咬」を発動し、巨大な獅子舞の頭が次々と現れ、漆羽たちに襲いかかる。

幽は「手札ならあるさ。“死闘”だ」と言い放つ。

ハクリを襲おうとする巨大な獅子舞の頭を、白廻斬が瞬時に切り倒し…「下がってて」とハクリに告げる斬の声が、激化する戦場に響き渡るのだった。

89話「乱戦」

英雄の終焉と人形の正体
雲のない空に降る雨、真夏に舞うあられ、音もない雷鳴――。

かつて、空に現れる異変が「悪党が死ぬ前兆」と恐れられた時代があった。

それは、妖刀「刳雲」を操る旧契約者、巳坂伊武基(みさかいぶき)の存在に由来する。

斉廷戦争の最中、彼は二十歳という若さで座村に並ぶほどの剣豪として名を馳せ、その圧倒的な力で数々の伝説を残した。

しかし、その栄光も永遠ではなかった……。

三年前、六平国重が殺害されたその時、毘灼の刺客が巳坂伊武基の自宅に現れる。

英雄と刺客の一騎打ちは、英雄の敗北という結末を迎えた。

その刺客と似た、甲冑を纏った敵を倒した神奈備の薊奏士郎は、その正体を見抜いていた。(六平宅を強襲した刺客と同じ鎧だが、これは妖術で操られた人形だ。本体は別の場所にいるな)と、冷静に状況を分析する。

戦いの舞台は、神奈備本部第一層にある曲者処刑場。

事態はまだ序章に過ぎないことを、薊は確信していた。

虚無を抱える剣士
場面は切り替わり、街の一角にある小さな煙草屋。

店主の老婆と会話を交わす毘灼の北兜(ほくと)は、先ほど処刑人・薊が倒した「鎧の人形」について語っていた。

処刑人(薊)は、さすがに鎧の人形では太刀打ちできないか、と北兜は静かに呟く。

煙草屋に訪れた男がタバコの火を北兜に求めた…北兜は抜刀の摩擦で瞬時に火を灯す。

タバコに火をつける際、彼は抜刀した刀の摩擦で着火するという妙技を見せるが、それに驚く男には「いいや?」とはぐらかす。

老婆は彼の意地悪な態度を咎めながらも、摩擦で超高温を生み出す彼の技術に感心していた。

その直後、北兜の携帯電話が鳴り響く。電話の相手は毘灼のメンバー、お松。

北兜は薊が人形を倒したことを報告し、時間稼ぎはできたかと尋ねる。

お松は「さっさと突入しろ」と命令するが、北兜は気乗りしない様子で「んぁーはいはい、行きますよ」と返事をする。

北兜は、三年前、たった一人で英雄・巳坂伊武基を殺したと称賛されることに不満を抱いていた(俺が戦った巳坂伊武基は、剣豪じゃなかった。戦争から15年経って、とっくに牙は抜け落ちてたんだ)と内心で呟く。

長年かけて調整した刀のすべてを出しきれなかった虚しさ……。

北兜はその日から、真の強者との戦いに飢えていた。

お松は、神奈備本部には「白廻の孫」や「巳坂の…」がいると告げる。

そして最後に、漆羽洋児が生きていること、そして本部内で幽たちと対峙しているという「朗報」を伝えると、北兜の顔に満面の笑みが浮かぶ。

兄弟の道
同じ頃、神奈備本部第三層の訓練室では、巳坂奈ツ基(みさかなつき)が剣術の鍛錬に励んでいた。

(俺には二つ上の兄貴がいた。俺たちはいつだって二人揃って最強だった…)巳坂奈ツ基はかつての記憶を辿っていた。

才能に恵まれた巳坂兄弟は、斉廷戦争が始まると東京へ向かい、兄・伊武基は妖刀「刳雲」の契約者に選ばれる。

兄弟二人揃って最強!奈ツ基も妖刀の契約者になるはずだった。

しかし、妖刀「真打」を除けば最後の妖刀「酌揺」の契約者に選ばれたのは、一つ年下の新参者、漆羽洋児だった。

兄・伊武基は「仕方ない。この世界は少しでも弱けりゃ淘汰される」と語った。

兄弟の道はそこで分かれ、戦後、伊武基は剣を捨て……そして三年前、伊武基は毘灼に殺された。

弱くなったから淘汰されたのだと、奈ツ基は自分に言い聞かせていた。

しかし、奈ツ基は兄とは違う!戦後十八年間、一日も欠かすことなく剣術に打ち込んできた今の自分は強くなったと確信していた。

そこに神奈備の隊員が駆けつけ、第五層に毘灼が侵入したことを告げる。

奈ツ基は、この非常事態を「これ以上ない長ぇ準備運動だった」と受け止め、戦場へと向かう。

90話「キリちゃん」

英雄の終焉と人形の正体
雲のない空に降る雨、真夏に舞うあられ、音もない雷鳴――。

かつて、空に現れる異変が「悪党が死ぬ前兆」と恐れられた時代があった。

それは、妖刀「刳雲」を操る旧契約者、巳坂伊武基(みさかいぶき)の存在に由来する。

斉廷戦争の最中、彼は二十歳という若さで座村に並ぶほどの剣豪として名を馳せ、その圧倒的な力で数々の伝説を残した。

しかし、その栄光も永遠ではなかった……。

三年前、六平国重が殺害されたその時、毘灼の刺客が巳坂伊武基の自宅に現れる。

英雄と刺客の一騎打ちは、英雄の敗北という結末を迎えた。

その刺客と似た、甲冑を纏った敵を倒した神奈備の薊奏士郎は、その正体を見抜いていた。(六平宅を強襲した刺客と同じ鎧だが、これは妖術で操られた人形だ。本体は別の場所にいるな)と、冷静に状況を分析する。

戦いの舞台は、神奈備本部第一層にある曲者処刑場。

事態はまだ序章に過ぎないことを、薊は確信していた。

虚無を抱える剣士
場面は切り替わり、街の一角にある小さな煙草屋。

店主の老婆と会話を交わす毘灼の北兜(ほくと)は、先ほど処刑人・薊が倒した「鎧の人形」について語っていた。

処刑人(薊)は、さすがに鎧の人形では太刀打ちできないか、と北兜は静かに呟く。

煙草屋に訪れた男がタバコの火を北兜に求めた…北兜は抜刀の摩擦で瞬時に火を灯す。

タバコに火をつける際、彼は抜刀した刀の摩擦で着火するという妙技を見せるが、それに驚く男には「いいや?」とはぐらかす。

老婆は彼の意地悪な態度を咎めながらも、摩擦で超高温を生み出す彼の技術に感心していた。

その直後、北兜の携帯電話が鳴り響く。電話の相手は毘灼のメンバー、お松。

北兜は薊が人形を倒したことを報告し、時間稼ぎはできたかと尋ねる。

お松は「さっさと突入しろ」と命令するが、北兜は気乗りしない様子で「んぁーはいはい、行きますよ」と返事をする。

北兜は、三年前、たった一人で英雄・巳坂伊武基を殺したと称賛されることに不満を抱いていた(俺が戦った巳坂伊武基は、剣豪じゃなかった。戦争から15年経って、とっくに牙は抜け落ちてたんだ)と内心で呟く。

長年かけて調整した刀のすべてを出しきれなかった虚しさ……。

北兜はその日から、真の強者との戦いに飢えていた。

お松は、神奈備本部には「白廻の孫」や「巳坂の…」がいると告げる。

そして最後に、漆羽洋児が生きていること、そして本部内で幽たちと対峙しているという「朗報」を伝えると、北兜の顔に満面の笑みが浮かぶ。

兄弟の道
同じ頃、神奈備本部第三層の訓練室では、巳坂奈ツ基(みさかなつき)が剣術の鍛錬に励んでいた。

(俺には二つ上の兄貴がいた。俺たちはいつだって二人揃って最強だった…)巳坂奈ツ基はかつての記憶を辿っていた。

才能に恵まれた巳坂兄弟は、斉廷戦争が始まると東京へ向かい、兄・伊武基は妖刀「刳雲」の契約者に選ばれる。

兄弟二人揃って最強!奈ツ基も妖刀の契約者になるはずだった。

しかし、妖刀「真打」を除けば最後の妖刀「酌揺」の契約者に選ばれたのは、一つ年下の新参者、漆羽洋児だった。

兄・伊武基は「仕方ない。この世界は少しでも弱けりゃ淘汰される」と語った。

兄弟の道はそこで分かれ、戦後、伊武基は剣を捨て……そして三年前、伊武基は毘灼に殺された。

弱くなったから淘汰されたのだと、奈ツ基は自分に言い聞かせていた。

しかし、奈ツ基は兄とは違う!戦後十八年間、一日も欠かすことなく剣術に打ち込んできた今の自分は強くなったと確信していた。

そこに神奈備の隊員が駆けつけ、第五層に毘灼が侵入したことを告げる。

奈ツ基は、この非常事態を「これ以上ない長ぇ準備運動だった」と受け止め、戦場へと向かう。

91話「奈ツ基」

猛攻を退ける北兜
白廻斬とハクリは、突如現れた毘灼の北兜と対峙していた。

北兜はハクリの正体を「漣伯理」と見抜く。

白廻斬は刀を使い陽動をかけるが、北兜はそれを「半端な刀だ」と一蹴し、その真の狙いがハクリの妖術「威葬」であることを看破した。

ハクリが放った「威葬」は、北兜によってまるで紙切れのように弾き返される。

それは、この日三度目の威葬…徐々に威力を失っていく自身の妖術に焦燥感を覚えながらも、ハクリは「一歩も動かずに…はじき返されるなんて」と、北兜の圧倒的な力に戦慄する。

漆羽の居所を尋ねる北兜に対し、白廻斬は応える気はなく、内心でハクリに逃げるよう促す。

しかしハクリは「もっとあの時くらいの力を振り絞れば…!」と、諦めきれない思いを抱いていた。

新たな剣豪の介入
その時、ハクリの後ろの壁が四方に斬り裂かれ、巳坂奈ツ基が飛び出してくる。

彼は北兜に猛然と斬りかかり、その場にいた白廻斬を助ける。

白廻斬は「ナツキ!」と呼びかけるが、奈ツ基は「おい、呼び捨てにするな」と、いつものように年上であることを強調する。

神奈備職員が「建物を壊すな」と叫ぶ中、彼は自身の名を名乗り、兄・巳坂伊武基が三年前毘灼に殺されたことを告げ、北兜がその組織の一員であることを確認する。

北兜もまた自身の名を明かし、もし奈ツ基が自分に勝てば、兄を殺した張本人を紹介すると持ちかける。

剣豪たちの思想
北兜は、自身の剣は生き抜くためではなく、「死闘の悦び」のためにあると語る。

彼は、全てを出し切る戦いの中で研鑽が花開くと信じていた。

そして、その相手に漆羽洋児を選び、その居場所を尋ねる。

しかし、奈ツ基は「過去の称号にばかり気を取られて目の前の剣豪を見過ごすのは情けねぇ話だな」と、北兜の言葉を一笑に付す。

奈ツ基の言葉通り、彼の太刀筋は素早く、甲冑に刃を通すほどの繊細さを持っていた。

その隙をついて、白廻斬は巨大な壁を蹴り飛ばす!

奈ツ基は、その隙をついて妖術「雷躯(らいく)」を発動させ、雷光を北兜に浴びせる。

その凄まじい力は、再び神奈備職員に建物の破壊を警告させるほどだった。

渦巻く感情と残酷な再会
奈ツ基は、漆羽に固執する周囲の人々や、漆羽自身の態度に苛立ちを覚えていた。

漆羽が奈ツ基を明確に見下していると感じていたのは、ひとつ年下の漆羽が奈ツ基を「友達」と呼び、タメ口で話そうとしたことに起因していた。

奈ツ基は、漆羽の「よくわからん言い訳」にうんざりしていた。

北兜に対し、奈ツ基は「漆羽洋児はもう死んだ。俺はせいせいしたよ」と突き放す。

しかし、その言葉が終わるや否や、天井が崩れ、漆羽洋児が舞い降りてくる。

ここに神奈備の漆羽洋児、白廻斬、ハクリ、毘灼の幽、北兜の精鋭が集う。

「おおナツキ!お前がいれば心強い!」無邪気に再会を喜ぶ漆羽の明るい声は、奈ツ基の心に渦巻く複雑な感情とは裏腹に、残酷なまでに響き渡るのだった。

92話「奈ツ基」

再会する剣士たち
神奈備本部での激しい戦いは、さらなる激化をたどっていた。

天井が崩れ落ち、その隙間から漆羽洋児と幽が姿を現す。

幽の姿を確認した北兜は、彼が連れてきた男が漆羽洋児であることに気づき、待ち望んだ再会に興奮を隠せない

漆羽と奈ツ基、二人の剣士は久々の再会を果たした。

奈ツ基は、悠然と現れた漆羽に「何チンタラやってんだ」と苛立ちをぶつける。

漆羽は、敵の妖術で体が重かったと釈明するが、すでにその影響はなくなっていた。

奈ツ基は北兜の反応速度に驚嘆し「こっちの敵はやり手だ」と警告する。

漆羽の隣にいた白廻斬も、北兜の剣の腕が相当なものであることを感じ取っていた。

漆羽は白廻斬とハクリに、真打のもとへ向かうよう指示を出す。

白廻斬は不満を漏らすが、奈ツ基が「文句言うなガキが」と一喝する。

漆羽もその口の聞き方を咎めるが、白廻斬は「おじさんはおじさんに任せよう」と、二人をまとめてからかうのだった。

明かされる因縁と宣戦布告

北兜は漆羽に、斉廷戦争で妖刀を振るった彼への敬意を語る。

そして、自分が巳坂伊武基を殺した張本人であること、さらに六平国重の心臓を刀で突いたのも自分だと告白する。

北兜が言葉を続ける中、幽は「なんのつもりだ」と制止しようとするが、北兜は構わず、幽こそが六平と巳坂の殺害を指示した首謀者であり、毘灼の頭だと明かす。

その瞬間、漆羽の居合白禊流が炸裂し、北兜の左腕を切り落とした。

極限の剣術
神奈備本部第3書庫で、4人の剣士の激しい斬り合いが始まった。

北兜は白禊流の威力に驚愕しながらも、漆羽洋児を「戦才」と称し、死の未来を容易に想像できるその状況に痺れていた。

北兜は漆羽の左手の指を切り落とし、自身の左腕の仇を討つ。

漆羽は、北兜の卓越した距離感覚と動体視力に驚愕する。

そこに奈ツ基が斬りかかる。「温泉三昧でふやけちまった漆羽でご満足か?」と挑発するが、北兜は奈ツ基がまだ本気を出していないことを見抜いていた。

奈ツ基は、漆羽の初速の速さを認めつつも、その剣の鋭さが落ちていることを見抜いていた。

彼は、長年の鍛錬と戦いの末に手に入れた「鋭さ」こそが、剣士の命運を分けると確信していた。

本能の呼び声

奈ツ基の鋭い攻撃を目の当たりにした幽は、北兜の加勢に入る。

一方の漆羽は、風呂でのんびりしていた自分と戦い続けた奈ツ基を比較し、この状況を「俺以外全員準備万端」と認識していた。

だからこそ、ここで彼らを殺さなければならないと決意する。

かつて、死の瀬戸際でひたすら実戦の中でその腕を磨いた漆羽。

彼の剣の原点は「生きる術」だった。

剣豪たちとの死線は、その本能を再び沸き立たせていく。

4人の剣士の斬り合いは、双方満身創痍の状態で続いていくのだった。

93話「仕上げ」

剣士たちの乱舞
北兜、幽、漆羽洋児、巳坂奈ツ基の四人の剣士が向かい合う。

北兜はこの戦いの状況を心から楽しんでいるようだった。

奈ツ基が自分だけが妖術を使っていることに苛立ちをぶつけると、漆羽は18年ぶりという長いブランクから、妖術という選択肢が咄嗟に出てこなかったと認める。

漆羽のこの言葉は、戦いから離れていた彼の状況を象徴するとともに、奈ツ基との関係性の深さも示していた。

北兜は、奈ツ基が妖術がなくとも優れた剣の腕を持つことを称賛し、奈ツ基は北兜の言葉を軽蔑しながらも、その実力には一目置いていた。

奈ツ基は、幽が剣術ではなく純粋な身体能力で戦いに食らいついていること、そして北兜が「俺たちを殺す気っていうより剣戟をじっくり味わってる」という恐ろしい事実を見抜く。

北兜は、皆が負った傷を「良い」と表現し、この戦いが最高潮に達していることを示唆する。

彼にとって、この戦いは命を懸けたショーであり、その狂気じみた愉悦は、奈ツ基に「糞喰らえ」と吐き捨てさせるほどだった。

毘灼の容赦なき侵攻
その頃、神奈備本部第五層では、毘灼の構成員たちが無慈悲な侵攻を続けていた。

毘灼の瓶伍は妖術で頭を獅子舞へと変じ、職員を噛み砕き、毘灼の右嵐は冷気を操り、触れた兵を次々と氷像へ変えていく。

二人にとって人命はただの糧であり、犠牲者の悲鳴さえも愉快なざわめきにすぎなかった。

彼らは神奈備の兵を「弱い」と嘲笑い、やがて現れる精鋭部隊に備えて力を蓄えていると口にする。

神奈備職員はその圧倒的な力の差を悟り、抗う術を失っていた。

だが一人の神奈備職員が前に出て、静かに言い放つ。「数秒でいい、もたせる。その後は合図で俺ごと撃て」と。

自らの命を捨てる覚悟を示したその言葉は、絶望的な状況にあってなお戦い続ける意思の証だった。

この場面は、毘灼の非情さと、神奈備の兵士たちの悲壮な決意を鮮烈に浮かび上がらせていた。

真打を巡る思惑
真打・勾罪を探して本部をさまよっていた白廻斬とハクリは、薊奏士郎と壱鬼に出くわした。

ハクリは薊が無事であることに心から安堵する。

薊は、曲者処刑場での混乱が収まり、今や内部のゴタゴタが深刻な問題だと語った。

ハクリは、自分が真打を蔵にしまえばこの事態は収まると信じていた。

しかし壱鬼は、毘灼の無謀な行動の裏に別の目的があるのではないかと推測する。

彼は、毘灼が真打を楽座市に出品した行為が、遠隔で力を発動させるための「起爆剤」を送り込むものだった可能性を語った。

封印の際に細工がないかは調べ上げたものの、壱鬼の口から出る言葉には「懸念」という重い響きがあった。

ハクリは壱鬼の不安な言葉を聞きながらも、希望を捨てず、ついに真打のもとにたどり着く。

この場面は、ハクリの決意と、まだ明かされていない毘灼の真の狙いが、物語をさらに複雑にしていることを示唆していた。

94話「仕上げ」

真打起動の仮説
壱鬼はハクリに、真打の能力と封印の仕組みに関する見解を確認した。

ハクリの話に基づき、妖術「蔵」への登録には玄力を込める必要があること、そして楽座市に出品された「真打」が封印解除状態だったという事実から、壱鬼は漣京羅が早期に真打へ玄力を込めていたと推測した。

壱鬼は、玄力を込めるだけでは影響がなく、「使う」という明確な意思があって初めて真打の力が発動されるという仮説を立てる。

これにより、あらかじめ玄力を込めておけば、神奈備本部内で力を発動できるという「起爆剤」の可能性が浮上した。

この力は一時的だが、代償として剣聖に身体を蝕まれ、発動者は自我を保てなくなる。

壱鬼はこの作戦の危険性から可能性は低いと見ていたが、調査の結果、真打に誰の玄力も仕込まれていないことを確認し、再封印を完了させた。

封印作業は壱鬼、嘉仙、夜弦の3人によって行われた。

神奈備上層部への疑念
ハクリは、神奈備の長官である嘉仙、補佐の壱鬼、夜弦の3人がトップの実力者であると知りながらも、区堂が薊を「頭一つ抜けている」と評していたことを思い出す。

薊は、自身の強さが戦闘面に限られることを認め、妖術以外の結界術や封印術といった分野では、他の3人に及ばないと説明した。

壱鬼は、毘灼の無謀な行動の裏に、白羽織の3人のうち誰かが毘灼に内通している可能性を懸念していた。

白羽織の人間であれば、混乱の隙に真打の封印を緩め、本部内の人間を捨て駒として利用することが可能であるためだ。

壱鬼は、長年の付き合いである嘉仙と夜弦への懸念を解消するため、真打の保管場所へ向かう。

真打保管場所での異変
壱鬼、薊奏士郎、ハクリ、白廻斬の一行は、妖刀「真打・勾罪」が保管されている場所に到着する。

嘉仙がそこで待機していた。

壱鬼は嘉仙を見て安堵し、封印が健在であると判断する。

嘉仙はハクリの無事を尋ね、壱鬼が真打をハクリの蔵へ移すという予定を確認すると、「毘灼にここを堕とす術はない」と確信を示す。

しかし、嘉仙は壱鬼の言葉を「…いや」と否定した。

幽の決断と真打の力の顕現
場面は、幽と北兜対漆羽洋児と巳坂奈ツ基の戦場へと切り替わる。

北兜は斬り合いを続けることを望むが、幽は、漆羽と奈ツ基が妖術で自分たちを早々に殺す意図を持っていることを察知し行動を早める。

すると幽の動きが急激に加速し、膂力も向上した!

そして、再びハクリ側の場面。

壱鬼は、問題なかったはずの封印の内側から玄力が溢れ出ていることに気づき、事態が封印前から仕込まれていた可能性に直面する。

彼は、誰かが仕込みを知っていて隠蔽工作した可能性、すなわち内通者の存在を疑った。

幽は、真打の力を楽座市に出品する直前に玄力を込めたことを回想する。

楽座市での目的は、真打の力の主導権と「猶予」の有無を確認することだった。

漣京羅ほどの精神力が無ければ戦闘すらままならくなるような行為だが、幽は「比類なき執念の下には試す価値がある」と確信していた。

神奈備本部深くに幽閉されている剣聖はひとこと呟く「勾罪」と……。

剣聖の力である妖刀「真打・勾罪」の能力が幽の身体に宿り、発動する。

東の地中から咲く花のように力を得た幽と、西の天から墨色の羽根を穿ち東京へ移動する座村清市達。

戦局は急激に加速し、物語は幕を閉じた……。

95話「横溢」

神奈備の限界と嘉仙の思想
嘉仙は、神奈備の限界と自らの理想について語り始めた。

彼は、漣家のような有力な妖術師一族が古くから存在し、18年前の斉廷戦争を機にその活動が活発化しようとしていた状況を指摘する。

戦後、政府によって新設された神奈備は、寄せ集めで歴史が浅いため、伝統ある有力一族は神奈備に服従しなかった。

嘉仙は、漣家主催の「楽座市を見過ごす」ことさえが、現在の神奈備ができる「最低限の治安維持」の範疇だと説明した。

彼は、真の秩序をもたらすためには、各地の有力一族を神奈備の傘下に置くことが不可欠だと主張する。

しかし、生半可な威圧では彼らは屈しない。そこで必要となるのが、「圧倒的な力」、すなわち妖刀の力だと断言した。

妖刀利用の是非と裏切り
壱鬼は、その議論は戦後間もない頃に既に行ったと反論する。

彼は、妖刀「真打」がかつて「蠱」という大罪を犯したことを指摘し、妖刀にも罪があると主張する。

チヒロの父・六平国重ですら妖刀の奥行きを正確に計り知れなかった以上、第二の蠱が起こる可能性を否定できないため、力を使う選択肢はないと断言した。

神奈備は妖刀を封印し、教育によって後進を育て、人の力で平和を築くという方針を確立したのだ。

しかし嘉仙は、その総意では妖術師一族の支配はできないとし、この世に必要なのは妖刀の力だと繰り返す。

彼は、この日のために地位を維持してきたと明かし、「妖刀による秩序」をもうすぐ始められると告げた。

壱鬼が「毘灼のような賊と組むのか」と問うと、嘉仙は「明るい未来のためなら」と、矜持も…剣聖を殺すことで道連れになる契約者たちも…かつての六平国重も…そして今抵抗する壱鬼たちもすべてを犠牲にする覚悟があると断言した。

薊の裁定と嘉仙の排除
嘉仙の告白が終わった次の瞬間、薊奏士郎の裏拳が嘉仙の顔面に入った。

薊の拳は嘉仙の顔面にめり込み、その体は壁に激突して壁を崩壊させ、嘉仙はそのまま気を失った。

薊は壱鬼に、気を失った嘉仙の尋問を依頼する。

嘉仙が「毘灼側」の人間を全て知っていると判断したためだ。

壱鬼が薊の行先を問うと、薊は「毘灼の頭を狩りに」行くと答えた。

その場に倒れる嘉仙は、無駄だと呟き真打の力の前では無力だと嘯く。

壱鬼は、薊が戦闘面だけでなく妖術もかなりの実力者であり、区堂の「薊が頭一つ抜けている」という言葉が総合的な評価だったことを悟る。

真打の力「蜈(むかで)」の発動
場面は、幽&北兜 対 漆羽洋児&巳坂奈ツ基の戦場へ移る。

幽は真打の力で彼らを蹂躙すると告げ、妖刀真打の能力「蜈(むかで)」を発動させる。

幽を中心に、地上から高さ1メートルの広範囲に衝撃波が広がり、周囲の柱や壁が崩れ落ちた。

この圧倒的な力に、巳坂奈ツ基は驚愕を覚える。



幽は、「剣聖…すぐに殺しに行くよ」と内心で告げ、完全に真打を自分のものにするという意志を示した。

薊の決意と戦局の拡大
嘉仙を排除した薊は、「望みは支配か…真打による支配…その先に何がある…」と、真打の力による支配の行く末に悪い想像を巡らせる。

薊は心中で六平国重に語りかける……必ず止める……だから安心して眠ってほしいと。

その背には、神奈備を支える者としての重みと、未来を背負う者の覚悟が確かに宿っていた。

96話「切迫」

神奈備本部の孤立と対策の指示

真打の力が発動した事態を受け、神奈備補佐の壱鬼は、極度の切迫感から、柴登吾と香刈緋雪の妖刀契約者二名を急ぎ本部へ呼び戻すよう指示した。

他の契約者の警備は最低限でよいとし、このまま剣聖が殺されれば命滅契約の影響で全ての契約者が死ぬという、最悪の事態を防がぐため、何としても幽を食い止めなければならないと判断していた。

しかし、職員からの応答は「電波が繋がらない」というものだった。

嘉仙は、この混乱の中で毘灼の同志が結界の仕込みを成功させ、神奈備本部が孤立無援の状態に陥ったことを確信する。

壱鬼は、結界が妖刀「淵天」と「飛宗」の侵入のみを阻むよう改変された可能性を推測。

その効果は数分程度だと断じる壱鬼に対し、嘉仙は「全てを賭けた数分」であり、真打の力の前では生身の妖術師を殲滅するのに十分な時間だと、その冷酷な思惑を口にした。

妖刀の気配と三者の迎撃開始
真打の力を使い出した幽の気配を察した薊奏士郎は、この力が剣聖を殺す目的のために使われていると見抜く。

漆羽洋児は、座村清市と六平千鉱の二つの妖刀の気配が本部近くに来ていることを感じ取り、「チヒロ…やったのか」と内心で安堵した。

薊は、二人が到着するまでの束の間、幽をこの場に留めておくことを提案。

漆羽は、この能力がチヒロたちが言っていた「ムカデ」だと確信し、薊と奈ツ基に連携を促す。

奈ツ基も「わかってるよ。舐めんな」と応じ、三人は同時に幽を討ちにかかった。

幽は迎撃として、真打の能力「蜈(ムカデ)」を咆哮とともに発動。

「蜈」の攻略と薊の秘術解放
漆羽は、「蜈」が360度攻撃でありながらも、術者の背後には威力の弱い隙間があること、そしてインターバルが存在することを瞬時に見抜く。

言葉はなくとも、漆羽と奈ツ基は囮となり「蜈」を誘発し、薊が背後から隙を突くという連携を成立させた。

幽は、薊の速い動きを身体強化の妖術だと推測し、真打の別の能力「蜻(トンボ)」を発動。

直線的な攻撃で薊の両腕を破壊し、「生身じゃ勝ち目はない」と警告する。

しかし、薊は蜻(とんぼ)を受ける前に、10円玉と1円玉を指で弾き、妖術「己印(こいん)」を発動させていた。

この力は、二種類の金属のイオン化傾向の差異による微弱電流を操る、薊家に代々受け継がれた妖術であり、彼はそれを戦闘用に改良していた。

その力は、自らの血流を速めて身体能力を向上させ、さらには敵の筋繊維を激しく刺激し、幽に多大なダメージを与える。

命を懸けた極限の殴殺
幽は、薊の生身のような構えがブラフであり、その本命が硬貨を用いた妖術であることに気づく。

しかし、幽が「そこまでしてもこの程度が限界だ」と判断する直後、薊は「心配するな。本命は殴殺だーーッ!!」と叫んだ。

薊は、破壊された両腕にもかかわらず、渾身の拳を幽の脇腹にもろに叩き込む。

致命的な一撃を受けた幽の焦りを誘いながら、薊は「いいのか?こんところで僕らなんかとのんびりしていても……」と不敵な笑みを浮かべた。

真打の圧倒的な力と、妖刀契約者たちが結界に阻まれ近づけない状況の中、三人は自らの命を懸けた極限の時間稼ぎを続けていた。

97話「切迫」

結界の要と神奈備の秘密

神奈備本部を囲む強固な結界は、「神奈備職員以外の全ての者の侵入を阻む」大規模なものであり、その強大な玄力は、地下に張り巡らされた術陣が「大地の熱」から変換し、建物内部に供給していた。

本来、生命のエネルギーである玄力は人に属するものであり、誰にも属さない莫大な玄力は制御できず、自然消滅するはずだった。

しかし、その莫大な玄力を結界に変換し、制御を可能にしているのが、結界の要として中央に鎮座する「受け皿」と呼ばれる人物である。

彼は十年に一度、数名の候補者の中から選ばれ、約四ヶ月間の過酷な肉体改造を経て、いくつかの臓器と生殖機能を失う代わりに、膨大な玄力の媒体となっていた。

彼の周囲に接続する六名の補助者が、結界の維持を担っている。

結界の改変と「第二の受け皿」の存在
真打の力が本部内で解放され、上空に妖刀の気配があるにもかかわらず増援が降りてこない状況を、亥猿は結界の問題だと断じた。

彼は、結界の仕様に影響を与えられるのはここに接続している六名の中に毘灼側の人間がいるからだと疑う。

しかし、結界の要である男は、ここに裏切り者はいないと否定し、「もう一人いる。俺と同じく『受け皿』となっている奴が」と驚くべき事実を明かした。

亥猿は、毘灼の人間が本部に潜り込んだ者の中に「第二の受け皿」がいると推測。

それは容易な代償ではないが、毘灼側も半端な覚悟で来ていない証拠だった。

亥猿はすぐさま社内放送を流し、建物内に結界の「受け皿」がもう一人存在し、結界の条件を上書きしたことを全職員に伝達した。

壱鬼の推測と結界奪還の指令
壱鬼は、神奈備には不測の事態に備えて後継者を作るための道具(予備の受け皿)が存在したことを思い出す。

嘉仙の手引きがあれば、毘灼側がこれをすり替えて入手することも難しくなかっただろうと推測する。

この「第二の受け皿」によって玄力の流れが変わり、結界を生成する回路が変動した結果、妖刀「飛宗」と「淵天」の二振りのみを阻む結界へと条件が変更されたのだった。

受け皿が二つあることで力は乱れ、結界は不安定になり、本部とその周辺の電波にまで影響が出ていた。

嘉仙は、この不安定さゆえに結界は数分のうちに破られるだろうが、それよりも早く幽が剣聖に辿り着くと断言する。

対し壱鬼は、「そちら側の受け皿を殺して結界を元通りにすればいい話だ」と反論。

壱鬼はハクリと斬に、最優先で結界の奪還に向かうよう指示を出した。

幽の覚醒と薊の極限の抵抗
一方、戦闘中の幽は、真打の力に一矢報いた薊に対し、「そんな戦い方ではすぐに力尽きるぞ」と声をかけるが、薊は「妖刀の力がありながら生身の人間に一矢報いられて焦った方がいいんじゃないか?」と余裕を見せた。

幽は、真打の力を少しずつ掴み始めたことを自覚し、「ここからは期待に沿うよ。俺がこの国に秩序をもたらしてやる」と宣言。

毘灼の男は、幽を王にすると意気込んだ。

両腕の骨も筋肉もズタズタになりながら、薊は「結界が戻れば増援が来る。この男を完全に止めるには妖刀が必須だ」と冷静に状況を分析。

使える身体は限られているが、「まだまだ殴ります」と、死ぬ前にできる限り時間を稼ぐことを決意した。

そのとき、社内放送が再び響き渡り、亥猿は「引き続き毘灼を殺せ!邪魔する奴がいればそいつも毘灼側の人間だ」と叫び、結界を取り戻し、チヒロたちを呼び込むという神奈備の総意を職員全員に伝達し物語は幕を閉じた……。

98話「切迫」

対刳雲特選部隊の過去と「磁戒」の誓い
物語は時を遡り、双城を討ち、妖刀「刳雲」を回収するための作戦会議を行う「対刳雲特選部隊」の様子が描かれる。

隊長は萩原幾兎、隊員は新人を含む六名の精鋭たちだった。萩原は自身の妖術「磁戒(じかい)」で砂鉄を自在に操ってみせる。

萩原は、その砂鉄を部下たちの服に細かく編み込み、「俺の磁力で身動きが取れる」よう、空中戦の対策を講じた。

彼は「俺が誰にも攻撃は当てさせねぇ」と豪語し、部下たちの命は自分が預かると宣言!

隊員たちは、隊長が倒れた場合の危険性を指摘しつつも、萩原の自信と熱意を受け入れた。

しかし、その後の双城との戦いで新人を除く4名の隊員は殉職するという悲劇的な結末を迎えることになる。

無能隊長の「一人芝居」と砂鉄の幻影
現在、神奈備本部内で、萩原幾兎は部隊を壊滅させた「無能隊長」として、自責の念に囚われていた。

彼は、殉職した幼馴染の具柄一の面を妖術「磁戒」で動かし、一人芝居を繰り返していた。

職員たちは、彼が具柄の死を受け入れられず、意識が混濁していると判断し、孤立している萩原を憐れんでいた。

萩原は、戦いで亡くした隊員たちの衣服に編み込んでいたのと同じ砂鉄を周囲に撒き「皆といるみたいだ」と、その砂鉄に囲まれることで安心感を得ていた。

彼は食事もろくに喉を通らず、「無能はここで寝そべってるのが相応しい」と自嘲するが、具柄の幻は「どうせなら派手に戦って死のうぜ」と彼を鼓舞し続けた……。

「究極の無意識」と戦場への復帰
神奈備に毘灼が侵入したという社内放送が響き渡り、萩原幾兎が戦場へと戻る機会が訪れる。

神奈備本部の結界を元に戻すには、余計に設けられた「受け皿」を特定し排除するしかない……その判断が社内放送によって全館に響き渡った!

萩原は、自身を無能と罵る周囲の声や、自責の念を振り払い、「恐縮ですが無能隊長なりにお前らに捧げます!」と、亡き部下たちへの思いを胸に立ち上がった。

戦闘員として毘灼の妖術師と対峙した萩原は、相手の妖術による氷結攻撃を、服の中に忍ばせていた砂鉄でガードし、その防御力が健在であることを示す。

過去、萩原を診察した医者は、彼が精神の痛みから具柄の幻を生み出してしまったが、「妖術の真髄は余計な意識を介さない玄力の自然な巡り」であり、他人のように接している今の萩原こそ「究極の無意識」で戦闘に適していると分析していた。

磁力による「視覚化」と受け皿の討伐
社内放送により、結界の「受け皿」となっている毘灼の者がいることが改めて伝えられると、萩原は「要は本命さえ殺せばいいんだろ?簡単な話だなァ」と不敵に笑った。

彼は自身の妖術「磁戒」を応用し、MRI(磁気共鳴画像診断)の原理のように、超広範囲に強力な磁場をかけた。

その磁力を利用することで、神奈備本部内にいる人間の体内情報を視覚化し、ついに毘灼側の「受け皿」を発見する。

萩原は、砂鉄で具柄の面を操りながら、その砂鉄の刃を受け皿の毘灼の人物目掛けて勢いよく突き刺した。

会心の攻撃を成功させた萩原は、「ははははははははーーーーーっ!まだまだやれるぜ!俺たちはよーーーーーーッ!!!」と高笑いし、亡き部下たちと共に戦場に復帰した喜びと、任務を達成した興奮を爆発させた。

99話 「一番強い」

第二の「受け皿」幸禎の抵抗
神奈備本部内で、萩原幾兎は毘灼側の「受け皿」である少年、幸禎(ゆきさだ)を一突きし、その正体を暴いた。

萩原は、まさか相手がこんな「ガキ」だとは思いもしなかったが、「増援を呼ぶために殺さねばならない」と任務を遂行しようとする。

直後、幸禎は懐の短刀で萩原を襲いかかる!

その素早い動きに、萩原は「この傷でしぶてぇな」と苦戦を強いられながらも、妖術「磁戒(じかい)」で幸禎の左腕を切り落とす。

しかし、幸禎は即座に短刀を右手に持ち替え攻撃を続行。

さらに、落とされた幸禎の左腕はみるみるうちに再生し始める。

幸禎は自らを「もう17だ。大人だ」と称し、再生を前提に痛みを受け入れる強靭な精神力と、受け皿となる覚悟を示す。

斬とハクリの連携と不死身の体
激しい戦いで体力を消耗していた萩原は、ろくに食事もとっていない体に限界を迎え、前のめりに倒れ込む。

具柄の幻は「20秒休憩」と状況を茶化すが、萩原は「誰かァ!さっさと奴の首を刎ねろ!」と叫んだ。

その叫びに応じるように、長剣を持った白廻斬(キリ)が幸禎の頭上に現れ斬りかかる。

斬の長剣は幸禎の左腕から胴へとぶった切るが、幸禎の体は瞬時に再生していく。

斬の長剣が胸に刺さったまま、幸禎は蹴りを放ち斬を吹き飛ばす。

そこに漣伯理(ハクリ)が到着し、妖術「蔵」で刀を転送させ、妖術「威葬」でその刀を斬のもとへ飛ばした。

刀を受け取った斬は、迷わず幸禎の首を刎ねる。

幸禎の「一番強い」という信念
首と胴体が切り離されても、幸禎は死ななかった。

切り離された胴体側の左手で自らの頭を持ち、「幽が白と言うなら黒だって白なんだ。俺は…“毘灼で一番強い”。幽がそう言った…ならそう在らなければ」と、その言葉を絶対の信念として行動していることを明かす。

萩原は、幸禎の体が「不死」であることに驚愕しながらも、「タネはある…!煮るなり焼くなりしてさっさと」と、その再生能力を打ち破るための次の手を思案する。

しかし、時すでに遅く、その場に幽が姿を現した。

幸禎は「幽…!」と嬉しそうに声を上げ、幽は「幸禎(ゆきさだ)、流石だな」と称賛の言葉をかける。

幽の介入と剣聖への接近
幽の出現により、神奈備側の増援を呼ぶという目的は達成不可能になった。

ハクリは「薊さんが足止めしてたんじゃ…」と動揺するが、萩原は一瞬で、幽が手に持っていたのが薊奏士郎の左腕であることを見抜く。

薊の命を懸けた時間稼ぎは、ついに破られてしまったのだった。

幽は「時間が惜しいな」と告げると、妖刀「勾罪」の能力「蠱(こどく)」を発動し、その力により、周囲にいた神奈備職員が次々と殺され、戦場はさらなる混乱に陥る。

幽は、最下層へ向かいながら、「この下…剣聖、そこにいるな」と確信し、自身の最終目的である剣聖への接近を果たすべく歩みを進める。

最悪が迫る……。

100話「剣聖」

地下へと降りる幽
神奈備本部の最下層。冷たい空気が層を重ねるように静まり返っていた。

幽は、地の底へと続く階段を一歩ずつ降りていく。

(深い……まだ剣聖は遠い)

だが、妖刀「真打」との接続により、その声はすでに剣聖に届いているはずだった。

やがて、湿り気を帯びた闇の奥に、一人の男が見えてきた。

かつて「剣聖」と呼ばれ、20万の命を奪った妖刀の契約者——曽我明夢良。

最強の契約者 ― 剣聖・曽我明夢良
彼が握る妖刀「真打・勾罪」は、18年前に“蠱”を起こし、小国を崩壊させた。

五人の契約者によってようやく封じられたその力は、今も人智を超えた脅威として語られている。

投獄後、彼は人と話すこともなく、ただ静かに18年の時を過ごしていた。

(錯乱している——学者たちはそう言うが…)

幽の目の前にいるのは、錯乱ではなく、すべてを見透かしたような冷静さを宿した男だった。

曽我明夢良は静かに答える。

この国を守るために殺した、と。理想のもとに民を選別した、と。

それは狂気ではなく、揺るぎない信念からの殺戮だった。

妖刀の正義
幽はその言葉を受け、ゆっくりと頷いた。

(錯乱ではない。確信の上で蠱を起こした……ならば、俺と同じだ)

幽は、かつての英雄たちが“封印”という安堵を選んだことを否定する。

妖刀は、人を滅ぼすためでなく、“整頓する”ための力。

それを恐れた六平国重が、世界を歪めたのだと。

幽の思想は、剣聖の狂気と同質の理想へと溶け合っていく。

ふたりの視線が交わった瞬間、底の見えない理解が生まれていた。

修羅、再び現る
静寂を破るように、空間の揺らぎと共に薊奏士郎が姿を現す。

すでに左腕を失い、満身創痍……。

幽は迷いなく、妖刀「真打・勾罪」の能力“蜻”を放ち、薊の残された右腕を粉砕した。

だが薊はそのまま踏み込み、全身の力を込めて幽の顔面に踵を叩きつける。

血飛沫が宙を舞う!

限界を越えた肉体でもなお、立ち向かう薊の眼光は鋭く、死を恐れぬ覚悟が燃えていた。

交錯する静寂 ― 剣聖と修羅の狭間で
最下層の闇がざわめき始める。

“蠱”の影響で本部全体に広がる植物の侵食、苦しむ職員たち。

ハクリはその異様な光景の中で、チヒロの言葉を思い出していた。

——「妖刀のせいで罪のない人が犠牲になれば、俺はもう…」

その言葉が、今まさに現実となっている。

地上では秩序が崩壊し、地下では新たな“理想”が生まれようとしていた。

場面は静かに転じる。

寿司店のカウンターで、柴登吾が一つの電話を待っていた。

102話 「視るべきモノ」

孤立状態の神奈備本部
神奈備本部の最深部では、薊が両腕を失いながらも攻撃を試みていた。

渾身の蹴りは幽の顔面へ向かうが、幽は左腕で軽やかに受け止め、反動を利用したカウンターで薊を吹き飛ばす。

現在の神奈備本部は、毘灼の介入により「受け皿」が本来の一人から二人へ増員されている状態が継続していた。

この「二人体制」による玄力の乱れが結界の仕様を変更させ、妖刀の侵入を阻むと同時に、電波にまで影響を与え、本部内は携帯電話やスマートフォンが使用できない完全な孤立状態にあった。

萩原幾兎は、この孤立状態を打破するには毘灼側の受け皿を殺すしかないと理解していたが、首だけになっても生きている幸禎の「不死のタネ」を暴き出す猶予はないと焦燥していた。

「受け皿」の自己犠牲
混乱の中、結界を担う「受け皿」の神奈備職員は、亥猿に「俺を殺せ」と懇願した。

彼が命を絶てば結界は完全に明け渡されるものの、結界の乱れは収まり電波が回復する。

そうすれば外部に事態を知らせ、妖刀以外の増援を呼ぶことができる。

この職員は、貧しい生活から逃れるために、莫大な報酬を目当てに「受け皿」という職に就き、虚勢を張って選別を潜り抜けた過去を思い返していた。

彼は、「金は両親に…虚勢を張ったまま死なせてくれ」と、最期の願いを亥猿に託した。

亥猿がその覚悟を「立派だ」と受け入れ、職員を殺そうとしたその瞬間、毘灼側の北兜が突如乱入し、亥猿を吹き飛ばして「受け皿」を殺させまいと阻止した。

ハクリの「安全地帯」への転移
北兜の乱入を機に、ハクリは「味方を殺すのか?」と動揺するが、萩原は「一人の犠牲で皆が助かる」という大義を伝え、「皆を見殺しにして自分だけが生き残る地獄」を考えるようハクリを諭した。

萩原は、ハクリの妖術「蔵」による刀の召喚を、自分の妖術「磁戒」の届く距離(140m先)で実行させ、遠隔で受け皿を仕留める作戦を提案する。

そこで、ハクリは結界内の状況を“逆転”させる受け皿を殺すのではなく、“この空間から消す”発想に至る。

妖術”蔵”が発動し、受け皿の肉体は転移し安全地帯へ。

犠牲は不要となり、結界の受け皿が一人に戻ったことで玄力の乱れは消え去り、電波が安定を取り戻す。

これにより、地上で待つ柴へ連絡が可能となった。

柴の介入と三つ巴の戦端
地上で連絡を待っていた柴登吾は、妖術による瞬間移動で神奈備本部の最深部へ一瞬で到達した。

薊は柴へ、「遅いよ」と声をかける。

柴登吾は薊の安否が確認できると、幽のネクタイを掴み、すぐさま再び瞬間移動で地上へと幽を連れ出す。

柴は地上で待機していた座村清市とチヒロへ向けて「あと、よろしく」と声をかけ、幽を託した。

結界内へ入れないならば、連れ出すまで!

チヒロは「父さんの信念のもと…共に戦いたいだけだ」という思いを胸に、ついに淵天・飛宗 対 真打の三つ巴の戦端が開かれる。

102話「視るべきモノ」

幽の語る“蠱”と剣聖の真実
神奈備本部の最深部。

薊の生死を確かめた柴登吾は、幽のネクタイを掴むと、何のためらいもなく瞬間移動の術式を展開し、深層から地上へと跳んだ。

到着したその場には座村清市とチヒロが待っていた。

空気が張り詰める。

真打を握る幽は、まさにここで止めなければならない存在だった。

幽は周囲を一瞥し、人のいない街並みに気づく…避難を終えた跡……。

座村はわずかに頷き、その意図を肯定した。

幽は、自身が剣聖と交わした会話を語り始める……“剣聖が錯乱して蠱を起こした”という世間の理解は誤りだった、と……。

剣聖・曽我明夢良は正気のまま、国を守るという信念に基づき蠱を発動させた。

それは暴走でも事故でもなく、あくまで意志による選別と殺戮……。

幽はそこで確信する……蠱は厄災ではなく、“秩序をつくる手段”なのだと…六平国重の判断は間違いだったと……。

妖刀「真打」は封じるべき力ではなく、使うべき力!

幽は剣聖を再び世界に復帰させ、真打による支配を完成させるつもりだった。

座村は一切揺らがず、ただこれ以上を地上に被害を出さぬため“ここに留める”とだけだと告げた。

蜈(むかで)の衝撃波と座村の“視る力”
座村とチヒロが同時に斬りかかる!

座村の妖刀が幽の腕に届く瞬間、幽は「真打」の能力“蜈”を解放した。

地面から1メートルを中心に広がる強烈な衝撃波が放たれ、座村自身の身体をも粉砕するほどの威力で襲いかかる。

その一瞬の中で座村は“遥か先”まで視ていた……発達し切った四感の上に視覚を取り戻した彼の感知能力は、街に潜む数百メートル先の人々の死さえ予見してしまう。

次の瞬間、座村はカフェへ向けて身体をひねり、衝撃波の直撃から人々を守ろうと動く。

その隙を、幽は待っていた。

だが、衝撃波が届く寸前……柴登吾がカフェ内部に転移し、人々をそのまま瞬間移動で避難させた。

柴は座村に視線を向ける―“視るべきもんだけ視とけ!”―その意図が座村に伝わる。

チヒロの集中と、飛宗の“雀”
座村が振り返ると、全身の骨が折れ、強烈な痛みに苛まれながらも、赤い瞳を一瞬も幽から逸らすことなく刀を握っているチヒロがいた。

その姿に座村は、かつてチヒロが言った言葉を思い出す。

「真打は俺が折る!俺がこれから負う傷を癒して欲しい」

座村清市は、飛宗の能力“雀”で慈悲の炎を発動する。

その炎はチヒロの身体に触れ、砕けた骨と破れた筋肉を即座に修復する。

幽の追撃よりも早く、チヒロが再び立ち上がるための“土俵”が整えられた。

決着への一閃
チヒロが深く息を吸う。

復讐でも憎しみでもない。

「父の信念と、自分の使命を果たすため」

赤眼が幽を射抜き、足元に生まれる静かな踏み込みから──居合白禊流の構え。

「今、すべて終わらせる」

チヒロは地をえぐる勢いで踏み込み、一気に幽へ斬り込んだ。

座村と柴が整えた“絶対の一瞬”。

その刃は、真打を握る幽の胸元へ向かって走る。

ここからが本当の決戦だった……。

104話「英雄」

決着を狙う一瞬と、交差する力
チヒロが地をえぐる勢いで踏み出し、幽へ向けて淵天の能力「涅(くろ)」を解放する。その一閃は、座村と柴が整えた“絶対の一瞬”に乗せられ、真打を握る幽の胸元を目指す!

同時に幽もまた、勾罪の能力「蜻(トンボ)」を解き放つ!

チヒロと幽の斬撃が正面から衝突する。

座村もすかさず斬り込むが、幽の反応は鋭く、その攻撃を難なくいなす。

真打・勾罪から与えられる生命強化が、幽の治癒力と反射神経をさらに押し上げていた。

加速する幽の力と、座村の焦り

座村は幽の動きの変化を読み取り、反撃の隙を探る。

しかし幽は“蛛”を放ち二人の動きを止めようとする。

だが慈悲の炎をまとった二人には効力が続かず、状態異常は即座に解除される。

その瞬間、幽は“蜻”を連続して発動し、座村を射抜くように襲う。

攻撃を避けながら移動した座村は、気づけば電車の車両内へと飛び込んでいた。

乗客の避難は柴がすでに完了させており、座村は迷わず“本領を発揮した鴉”を展開し車両全体を空中へ転移させ、戦いの土俵を無人の上空へ移した。

しかし、その隙を狙った幽の“蜻”が座村の右上半身を深く抉り取る。

無人の空で続く攻防
重傷の座村を背に、チヒロが幽の目前へ迫る。

彼は地上の被害を防ぐため、この上空で幽を抑え込む覚悟を固めていた。

幽は周囲への執着を責めながら“蜈(ムカデ)”を発動し、広範囲の衝撃でチヒロを弾き飛ばそうとする。

しかしチヒロは肉体の負傷を顧みず、推進力だけに特化した鋭い突きを幽へ突き立てる。

脇腹には刺さるものの、急所は外れており決定打には至らない。

仕上げへの布石と、飛宗の本質
チヒロは次の展開に賭け、座村へ火力の集中を求める。

座村が発動したのは飛宗の能力 “雀”!

それは単なる治癒ではなく、身体にかかる異常そのものに作用する“再生”の力だった。

幽の強化は本来の力ではなく、妖刀真打・勾罪から「与えられている異常」……もしこれを再生の炎が“余分な干渉”と判定するなら、幽と真打との結びつきに直接作用する可能性がある。

チヒロはそこに望みを託し、幽を焼き尽くし、強引に二つを引き離そうと考えた。

慈悲の炎に包まれる幽
座村が放った“雀”の炎が幽の身体を包み込む。

これは攻撃ではなく、飛宗にしかできない「異常の焼却」……幽自身もその力に強制的に巻き込まれ、真打との結びつきに亀裂が走る。

炎の中で、幽の身体を覆っていた異常な生命強化が揺らぎ始め、物語はその緊迫した光景のまま幕を閉じる。

104話「英雄」

幽の“戦後の記憶”
斉廷戦争終結から間もない頃。

若い幽は、自宅で夕食を準備していた。

台所から立ちのぼる匂いに、恋人と思しき女性が嬉しそうに声をかける。

ラジオからは戦後の復興を伝えるアナウンスが流れ、刀匠・六平国重による奉納の知らせが続いた。

女性は「英雄たちのおかげだね」と笑う。

幽は同意しつつも、静かにその言葉を噛みしめていた。

その情景を、最深部の地下牢にいる剣聖が追体験していた。

幽の記憶の奥にある “英雄” への憧れ、感謝、そして依存の芯。

剣聖はそこに触れていた。

真打の侵蝕と“異質な力”
シーンは現在へ幽とチヒロの戦場へ戻る。

幽は真打・勾罪の力によって浸食が進行すればするほど発揮する力は大きくなっていった。

真打は契約者ではない者にも力の一部を使わせるが、その代償として妖術を司る神経から身体を強引に書き換えていく。

侵蝕が進むほど能力は肥大化し、使用者を“異質”へ変えていく。

しかし座村の『飛宗』の“雀”はその侵蝕を逆流させ、神経そのものを修復する働きを持つ。

この二つの力が幽の内部でせめぎ合い、剣聖の痕跡まで浮上し始めていた。

チヒロの怒りと幽の“正義”の衝突
チヒロは幽へ向けて叫ぶ。

戦争後の混乱、楽座市の弱者の犠牲……その裏に毘灼がいたこと。

その歪みを利用し、真打を正義と称して振りかざす幽に、チヒロは激しい怒りを向ける。

だが幽は揺るがない!

戦後の混沌、治安が追いつかず放置された弱者たち、その現実を語りながら「妖刀があれば救えたはずだ」「封印した六平国重こそ、この世界をつくった」と主張する。

幽の“救済の論理”は、かつての記憶で見た「英雄」の像に深く根ざしていた。

ふたつの“雀”と、剣聖の侵入
チヒロは幽を止めるため、自らの『淵天』の“猩”を使って炎を増幅し、座村と二人分の“雀”を重ねて幽へ叩き込む。

座村とチヒロ二人分の雀の炎が幽の内部に入り込み、神経へ深く作用する。

次の瞬間……幽の侵蝕が激しく跳ね上がる。

剣聖が囁く「身体はすぐに返してやる。俺に全て委ねろ…英雄には俺がなる。」

幽の内部で、剣聖の意志がより鮮明になっていく。

チヒロはその急激な侵蝕を察し、目を見開いた。

もはや幽ひとりの問題ではなくなっていた。

そして、“真打”が抜かれる…
幽の身体は炎に包まれながらも踏みとどまり、剣聖の意思を受けてなお前へ進む。

「英雄が必要なんだ」

その呟きは、過去の記憶と現在の戦いが一つに溶け合ったような響きを持っていた。

次の瞬間──静かに真打が抜かれていく。

剣聖の完全な覚醒すら感じさせる気配とともに、物語は次なる段階へ大きく動き出す。

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